無駄なものにこそ可愛さがある。「TOM WORKS」シマジリサトシ・小松美優が紡ぐ、ファッションの美学とトキメキの源
2020年に誕生したデニムブランド「TOM WORKS(トムワークス)」。この秋、ヤマハ発動機とコラボし、125ccバイク「XSR125」をベースとしたオブジェや、コラボレーションアパレルを発売した。
「TOM WORKS」は人気アーティストのカネコアヤノさんをはじめとした、第一線で活躍するクリエイターたちから愛される注目のブランドだ。魅力的なブランドを率いるシマジリサトシさんと、小松美優さんの活動の裏側にある「トキメキ」を探った。
INDEX
二人の原点とファッションへの道。「無駄が可愛さになる」TOM WORKSの美学
「TOM WORKS」を始める前は、お二人はそれぞれどんな活動をしていたのですか?
シマジリ:僕は大阪の大学を卒業して、バンドをやっていました。でも、なかなか売れずメンバーが抜けたりということもあって、何か別のことをしようと思い、上京して文化服装学院で服について学び始めました。グランジという音楽ジャンルが好きで、その延長線上で、高校生くらいからヴィンテージファッションが大好きになって。当時から古くてボロボロの服ばかり着ていました(笑)。
小松:私も文化服装学院に入学し、オートクチュール専攻の学科に所属していて、その時にシマジリと出会いました。私は子どもの頃からディズニーが大好きで、よくキャラクターの衣装をデザインして遊んでいました。高校生の頃から服作りを始めて、将来は舞台衣装などを作る仕事をしたいなと思っていたんです。その夢が叶って、劇団四季の衣装部で仕事をしていました。
そこから、どうやってブランドが始まったのですか?
シマジリ:僕が文化服装学院を卒業してすぐのタイミングで、ブランドを立ち上げました。卒業したのがちょうどコロナ禍で、それまでやっていた音楽系の仕事も無くなってしまって、これからどうしようかなと思っていたところで。
文化服装学院でよくしてもらっていた教授に相談したら、「デニムのブランドやってみたらどう?」と言われて、ヴィンテージのデニムを貸してくれたんですよ。それを参考に卒業製作でデニムを作ってみたら、意外とできて。それがきっかけでデニムのブランドをやろうと決めました。
小松:本人はそんなつもりないかもしれないけれど、きっかけになった教授だよね(笑)。私はシマジリよりも1年先輩で、当時はすでに劇団四季で働いていました。けれど、シマジリと同じくコロナで劇団の仕事がストップしてしまい、暇な時間ができました。そんな時に、たまたま学生時代から繋がりのあったシマジリから連絡をもらって、一緒にブランドをやってみることにしました。
「TOM WORKS」のアイテムはその多くが手作りなんですよね。改めて、ブランドの特徴を教えてください。
シマジリ:工場ではなかなか作れないような、曲線的で細かいステッチワークが特徴的だと思います。基本的には自分たちが可愛い!ほしい!と思うものを作っているので、僕が好きな1800年代くらいのアンティークデニムのようなドレッシーな雰囲気もあります。そういった凝ったデザインって機能的には要らないのですが、無駄が多ければ多いほどそれが可愛さになると思っているので、あえてそこに力を入れています。
小松:あとは、岡山県産の生地を使って、縫製も国内でというふうに、完全メイドインジャパンも意識しています。岡山県産の生地は、海外のハイブランドでも使用される良質かつ人気の高いものです。せっかく日本にいるので、それを活かしたいなと思っています。
共通の想い「AICHAKU」が生む新たなモノづくり
今回、ヤマハ発動機とのコラボのお話を聞いた時、どのように感じましたか?
シマジリ:もともと僕たちのお客さんだった方が、ヤマハさんと繋がりがあって、今回のコラボを提案してくれたんですよね。もちろんすごく嬉しかったのですが、正直、最初は実現しないだろうと思っていたので、テキトーに「やります」って言っていました(笑)。
小松:本当に決まった時はびっくりしたよね。
コラボのコンセプト「AICHAKU」にはどんな思いが込められていますか?
小松:ヤマハ発動機と私たちのモノづくりの姿勢や、バイクとデニムに共通することって何だろうと考える中で、「愛着」という言葉に辿り着きました。例えば、バイクでもデニムでも、何十年間も愛着を持って使っている人はいると思うんですよね。そんなふうに長く愛されるものを作れたらといった思いが込められています。
コラボの中では、「XSR125」を使ったオブジェを制作されていますね。特にこだわったところを教えてください。
シマジリ:普通だったら、ピカピカの綺麗なバイクを見せるのだと思うのですが、ちょっと逆を行ってみたいなと思い、使用感がかなりある仕上がりになりました。僕が好きなグランジの要素を取り入れて、バイク自体を錆加工したり、ボロボロのデニムをバイクに纏わせたりして、TOM WORKSとのコラボならではの「XSR125」になったのではないかと思います。
一般の方も購入できるアイテムとして作られた、“ the Jumpsuit ”は、普段の「TOM WORKS」のアイテムとどんな違いがありますか?
シマジリ:ファッションが好きな方はもちろんですが、せっかくならバイクに乗る方にも心地よく着てほしいと思い、普段よりも少し機能性にも注力して作っています。例えば、前屈みになっても動きやすいよう、背中にアクションプリーツを入れたり、グローブを入れやすいようにライダースジャケットのようなDポケットをつけたり。
小松:エルボパッチもつけられていて、普段のTOM WORKSのアイテムよりはライダーさんっぽさがあるデザインかなと思います。
シマジリ:腰の辺りにシンチバックというベルトがついているのですが、着る時はこのベルトを締めて、腰の辺りを絞って着るのがおすすめです。
小松:ウエストのあたりが絞られるので、寸胴にならずにかっこいいシルエットで着られるんですよ。
お客さんとの対話からラーメン、歌舞伎町まで—TOM WORKSが語る多彩なトキメキの源
お二人は普段、どんな時にトキメキを感じますか?
シマジリ:1番は、やっぱりお客さんと直接話している時ですかね。TOM WORKSのデニムを履いて、「可愛い!」「かっこいい!」と言ってくれるのを見るとすごくトキメキます。
小松:卸売をしていなくて、基本的には対個人で販売しているので、お客さんと直接話す場面が多いんです。目の前で喜んでくれるのを見るのはやはり嬉しいですし、その場で次のコラボレーションが生まれることもあるので面白いです。
ちなみに、TOM WORKSの活動とは直接的には関係ないけれど、生活の中でときめく瞬間もありますか?
シマジリ:色々あるな……。でも、ラーメンは好きですね。学生時代に北海道以外の“全都府県のラーメン食べるツアー”をやったことがあるくらい好きです。あとは、歌舞伎町とかちょっと地下経済的なものを感じる街に惹かれます。自分がどこかのお店に入るとかではないのですが、混沌とした街の感じが興味深くて。たぶん、グランジの文化などとつながるところもあって、好きなのかもしれないです。
小松:グランジのつながりで言うと、二人とも音楽は好きだよね。私は実は服を作るよりも好きなのが音楽を聴くことで。音楽を嫌いになりたくないから、音楽は仕事に選ばなかったくらいです。製作中も散歩中もよく音楽を聴いていて、音楽からアイデアをもらうことが多いかもしれないです。
シマジリ:確かに、音楽は二人ともよく聴いているかも。でも最近、僕は製作中に怪談聴いてる(笑)。
色々なところからトキメキのタネを拾われていますね…!最後に、今後の活動の展望を教えてください。
小松:まだ具体的に決まっているわけではないですが、海外でも販売してみたいなと思っています。すでに、海外のお客さんから問い合わせをいただくことがあるのですが、もっと広げられたらなと。
シマジリ:あとは、別の業態として飲食店とかもやってみたいねと話しています。これも単に、面白そうだからやってみたいという気持ちなのですが、いつか実現できたらいいなと思っています。
効率重視の現代に、あえて「無駄なものにこそ可愛さがある」と語るTOM WORKSの二人。だからこそ、多くの人が忘れかけていたトキメキを思い出させてくれるようなアイテムを作り出せるのだろう。これからも、二人の作るTOM WORKSの世界に注目だ。
コラボレーション・POP UP 詳細
◾️ヤマハ発動機×TOM WORKS 合同POP UP Store
・日時:2024年11月16,17,18日
・場所:RELOAD 東京都世田谷区北沢3丁目19−20
◾️アパレル販売(オンライン)
・日時:2024年10月12日〜
・TOM WORKS ONLINE SHOP
◾️関連URL
<TOM WORKS>
・コラボレーション特設サイト
・Instagram:@tomworks_official
<ヤマハ発動機>
・XSR125