好奇心の先へ。ZENが語る、自分と向き合う時間が教えてくれること。「トキメキは自分の中にある」
競技、パフォーマンス、芝居、アート。“可能性“という衝動を届けるため、あらゆる形で表現を続けるパルクールアスリート/アーティストのZEN。「好奇心に毎日突き動かされている」と語る彼が、自分と向き合う時間の中で気づいたこととは。パルクールで培った哲学やライフスタイルに迫る。
2023.11.10
INDEX
知らないことを知りたい。好奇心に突き動かされる毎日
ZENさんは普段どんなライフスタイルを送っているのですか。
知らないことを知ることが好きなので、興味がありそうな匂いを嗅ぎつけると、そこを掘っていますね。新しい人に出会ったり、違う考え方に触れたりすると、ひたすらに楽しいんです。それが例えば海外であれば海外まで会いに行きます。パルクールを始めたときの行動と一緒ですね。
10代の頃、そういう行動によって自分の人生が豊かになる体験をしたので、やっぱり行かないと見えないこととか、感じられない空気があるなと思います。好奇心に毎日突き動かされて生きています。
最近、深掘りしたことは何ですか。
最近はアート作品の発表をしているので、アートとの距離感が近くなったと思います。美術館やアートフェアなど、ジャンルを問わず作品をリアルで見たり、勉強する機会も増えましたね。
ZENさん自身の表現に繋がることも多いのでしょうか。
伝えたいことをいかにアートとして視覚化して伝えるかという点で、僕が今やりたいことと共通する部分があると思います。そういう人たちのアプローチを知れるのは、すごく刺激になるし勉強にもなります。
やっぱり、みんながその時代時代を、いろいろなモチベーションで生きてるわけじゃないですか。その中で今、自分が情熱を注いで、魂を削ってやりたい事は何か?を常に考えさせられますね。
限りある時間の中で、自分が大切にしている価値観に近い人と長く時間を過ごしたいとも思います。それが作品づくりや、自分が発信していくものにすごく影響を与えることもわかっているし、好奇心のままに動きながらも、そういう環境をどうやったら作れるかと日々考えています。
トキメキは自分の中にある。自分と向き合い探求する時間
何か新しいことに触れるとき、手掛かりにしていることはありますか。
好奇心をもって行動すると、「今自分が何に興味があるか」が見えてくるんです。でも、大事なのはもう少し深いところ、理由にあるかなと僕は考えていて。それを深掘りしていかないと、自分にとって本当に大事なポイントが分からないから。自分にとってのトキメキって何なのか?を探すということです。トキメキがわかると、その周りにあるものや近いものに惹かれて世界が広がったり、考えもしなかったような新しいことが始まったりするんです。
全然違う場所で出会ってときめいたけど、実は共通点が多かったなんてこともありますよね。
そうですね。僕は、トキメキって自分の中にあると思ってるんです。でも、それに気づくために、何かを見たり、人に教えてもらったり、自分から動いて外部からの刺激を受けることは大切です。なんというか、自分にいろんな景色を見せてあげるという感覚ですね。そうすることで、自分の中のトキメキに気づかせてあげて、選択肢を出してあげる。
例え自分の選択が、世の中でよしとされているものと全く違ってもいいと思うんですよ。もちろん外に向けるものに関しては、人に迷惑をかけないとか、最低限のモラルが要りますが、自分の中だけだったら何でもいいじゃないですか。目の前にいる人と考え方が全然違うというとき、変にすり合わせようとするから苦しくなる。世の中のあらゆるものは、それぞれ自由な解釈をしていいんです。
そう考えるようになったきっかけもパルクールだったのでしょうか。
はい。パルクールと出会うことで自分と向き合う姿勢や時間ができて、僕の中にあるトキメキに気付くことができたと思っています。だからってみんなパルクールをやりましょうという話ではないですよ。何でもいいんです。それぞれが自分の体や心の声と向き合う時間を作ることで、見えてくるものがあるのかなと思います。
自分を信じる秘訣は「知性と本能、両方の声を尊重すること」
自分と向き合い、本音が分かるからこそ、自分に厳しくなりすぎてしまうことはありませんか。
僕は自分の本能を尊重しているので、じつは自分に優しいんですよ。アスリートなのに?と思われるかもしれませんが、パルクールでもリスクが高いチャレンジはなるべくしません。ケガしたら元も子もないですし、本音を無視してまで無理をしてもいいことなんてありませんから。
意外ですね。自分に甘いのでは?という不安などはありませんか。
もちろん、状況によっては覚悟を決めて行動することもあります。でも、そうした判断も、甘さとも思えるような優しい判断も、自分で下した決断としてちゃんと信じるようにしているんです。
でも、それってじつはけっこう難しい。やっているといっても、今だ僕自身悩むことはよくあります。そこで、パルクールを通して気付いた僕なりの考え方なんですが、さっき話した「本能」と、もうひとつ「知性」が自分の中にあって、それらが師匠と弟子のように共存していると捉えるんです。自分がいい状態であり続けるには、いい師弟関係をキープすると考えるようにするんです。このとき、師匠がえらそうに指示して弟子にがんばらせてはいけないですよね。師匠は、弟子をがっかりさせない存在でいなきゃいけない。
例えば、目の前に怖いコトやモノがあるとします。ひとりで「ビビるな」と踏ん張るんじゃなくて、師匠から弟子に話すイメージで「何にビビってるんだ?」と心の中でやりとりしてみるんですよ。弟子が理由を語ってくれるときもあれば、閉じこもって何も答えてくれないときもあるかもしれない。でも、いっしょに解決したり、ときには違う場所に行って「これは怖くないのか?」と聞いてみたりすることで、お互いの考えや行動がわかってきて、信頼関係が築かれていく。ときには、師匠がよかれと思ってやったことがハズれて弟子ががっかりすることもあるんですけど、そのときはちゃんと「ごめん」っていう。弟子が笑って「いいよ」といえば、それもまた信頼を深めることになりますよね。それが自己肯定感を高いままキープする秘訣です。おかしな奴と思われるかもしれませんけど(笑)、僕は常にこの対話を自分の中でやっているんですよ。
そんな考え方があるなんて衝撃です。自分の感情や思いを、2つに切り分けて見つめるということですね。
そうですね。無謀なリスクは負わないといいましたが、それでも競技の世界では最悪の状況がたくさんありますから。アスリートという過酷な環境下でこそ培ったものかなと思います。
考え方もそうですが、それをここまで言語化できていることも尊敬します。
何に対しても、いきなり言語化を求めなくてもいいと思うんですよね。結局、自分がその瞬間に言語化するまでの理解ができてない状態なだけで、それを長く見てみたり、繰り返したり、もしくはそれに近い別なものを体験したりすることで、徐々に分かっていくものだと思います。
例えば、絵を書くことが好きでも、こういうタッチは好きだけどこのタッチは嫌いとか、この場所で書くのは気持ちいいだけどあの場所で書くのはイヤとか、同じ行為でも状況によって全然違うことってあるはずなんです。それをどんどん深掘りしていくと、本当のトキメキはここにあって、こっちのは違うものなんだなと知ることができるんじゃないかなと。
そういったことを知っていくことも、日々の原動力になっているんでしょうか。
そうですね、旅をしているかのように、目の前にある物事を見つめていくことが日々の楽しみです。知らないことを知れるかもという思いで朝起きれるって、幸せだなと思います。
もちろん気分が乗らない日もあるにはありますが、でもその理由も分かっているから、乗り切れるんです。世の中にはトキメキがあふれている。達観しているわけじゃなくて、それをただ楽しんで生きていたいだけなんです。
二回にわたって、パルクールの“初めての始まり”から、そこで培った哲学、そしてライフスタイルまで語ってくれたZENさん。彼の柔軟なマインドや多彩な表現に触れていると、思わず「自分のことを知りたい」という気持ちが湧いてくる。これからも続くであろう、彼ならではの探求の旅から目が離せない。
前編はこちら。『ZENが多様な表現を続ける理由。「パルクールに出会い、全てが能動的になった」』
パルクールアスリート・アーティスト ZEN
15歳でパルクールと出会い、翌年に単身渡米。19 歳で日本初のプロパルクールアスリートになると、アジア人として前人未到の全米チャンピオンに輝く。2020年には世界大会優勝を果たした。パルクール普及に関わるあらゆる活動に従事し、表現者としての活動も行なっている。自身の生き方や作品を通して"人間の可能性"を伝えることをテーマとする『FREERUN ON EARTH』プロジェクトを立ち上げた。 各国のトップパルクールアスリートで構成され、世界のパルクールシーンを引率し続けるインターナショナルチーム『TEAM FARANG』の一員として世界中で活動を続けている。2019年度Newsweek 『世界が尊敬する日本人100』の1人に選出。2023年アート個展「SEE THE WORLD DIFFERENTLY」を開催。
Instagram:@zen_pk_official Youtube:@ZENSHIMADA WEB SITE:https://www.zenshimada.com/
撮影場所提供:パルクールデザインラボ