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初めての始まり。

ZENが多様な表現を続ける理由。「パルクールに出会い、全てが能動的になった」

体一つで、さまざまな地形や建造物を走り、登り、飛ぶ、ムーブメントカルチャー「パルクール」。日本初のプロパルクールアスリートとして、数々の国際大会で優勝するだけでなく、2023年には初のアート個展も開催するなど、アーティストとしても輝きを放っているZEN。「パルクールとの出会いで、全てが能動的になった」と語る彼が、あらゆる表現を通して伝えたいこと。

INDEX

何もない自分の可能性を見出せた。パルクールとの衝撃的な出会い

パルクールを始めたきっかけは何ですか。

中学3年生のとき、クラスメイトの友達にパルクールの映像を見せてもらったことが始まりです。その時のことは今でも鮮明に覚えています。

元々アニメや漫画が好きで、身体的な動きを見ることが好きだったんですよね。でも、それは全部フィクションでありファンタジーとして認識していたので、生身の人間がこんな動きができるんだ!と衝撃を受けました。同じ人間がこれだけできる能力を持ってるんだったら、自分にも何か可能性が秘められてるんじゃないかって思ったんです。

元々スポーツなど、体を動かすことは得意でしたか。

いえ、特段運動ができるわけではなくて、部活にも入っていなかったし、勉強もできなかったし、何をやっても駄目だと思ってました。本当に何もなかったから、自分の可能性なんて信じてなかったんですよ。

でも、建物から建物へ飛んだり、障害物を使って回転しながらすごいスピードで前進したり、目の前で見た光景があまりにもすごかったから、何もしていなかった自分に対して「言い訳できないな」と感じたんです。だって、同じ人間なわけだから。

そこからパルクールを始めたのですね。具体的にどんなアクションをしたのでしょうか。

当時は施設も情報もないし、教えてくれる人もいなくて、近所の公園に行って見よう見まねでやるしかなかったです。半年経ってある程度まではできるようになったけど、どうしてもここから先に行けないと行き詰まってしまって。なんでできないのかすら分からなかったので、最初に見た映像に出ていた人に会いに、単身で渡米しました。

自分を知り、成長する旅。多様な解釈で広がるパルクール

行動力に満ちていて感服します。現地でどんなことを話し、感じましたか。

すごく印象に残ってるのが、「君は技をできるようになることに意識を向けすぎ。それよりも自分のことをもっと知っておかなければいけない。」と言われたことです。たとえば走ってるとき、自分の体がその瞬間どこにあって、どういう状態なのかを意識できていなければ、技なんてできないよ、と。だからまずは、自分の体や癖を知って、それを正しい位置に戻すところから始めないといけないって。そんな根本的なことをそれまで考えたことなかったので、とても新鮮だったし、道が見えたような気がしました。

元々、パルクールはフランスから始まったトレーニングの文化なんです。周りにある環境を使って、自分の知らない自分を知ったり、開発していったりするものなんですよね。それまでパフォーマンスのような、ある意味カタチをただ真似ようとしていた自分にとって、そういう大事な考え方を教えてもらった経験は大きかったですし、捉え方が変わった瞬間でした。

その後日本に戻って練習を続けましたが、なるべくアメリカに戻りたいという気持ちがあったので、通信制の高校に切り替えました。そして、アメリカでトレーニングしながら、レポートを書いたりとかして、卒業まで日本と行き来していましたね。家族の応援あってのことなので、本当に感謝しています。

そこから15年。当時と今を比べて、パルクールが広がってきた感覚はありますか。

僕が始めたときは、パルクールと言われてもピンとこない人が多かったのですが、今は認知してもらえる段階になってきて、すごく嬉しいことだなと思います。

トレーニングから始まり、いろんな国でそれぞれの解釈をされながら発展し、競技として、サブカルチャーとして、ファッションやライフスタイルとしてもどんどん広がりを見せているので、一言では言い表せないぐらいのものになり始めています。

国内外問わず頑張ってくれる人がいたからですが、僕自身もやってきた甲斐があるなと思います。でも、ここで終わらず、その先の世界や魅力ももっともっと知ってもらいたい。まだまだ、いたずらにリスクのあるチャレンジを、スリルを求めてやっているという誤解もたくさんあるので。

知らない人からすると、そういう認識はあるかもしれません。

パルクールをちゃんと理解すれば、実際はその「逆」なんです。クルマの運転と同じで、楽しくドライブするためには、まず“何をすると危ないか”を知ることが大事ですよね。教習所に行って、運転の方法を学び、練習して、緊張しながら車道を走って、最終的に高速道路で速く走ったり、遠いところまで行ったりできるようになる……でも、それだって一歩間違えれば大変なことになるじゃないですか。パルクールも同じ。いきなり激しい技をやっているわけじゃなくて、ちょっとずつ体の感覚を覚えて、思った通りに、正確に動かすというところから始めているんです。

パルクールをクルマの運転に例えるなら、F1レースのような認識に近いかもしれないけど、そういう非日常のものではまったくなくて、実はもっと身近で、すべての人に開かれているものなんです。そういうところからもっと伝わっていくと、みんなの生活にもパルクールの概念が少しずつ入っていけると思うんですよね。

パルクールをやってみたいという人も増えそうですね。

そうなると嬉しいですね。もしやってみたいと思っても、無理せず怪我をしないことが一番です。筋トレをするにしても、無理やり持てない重りを持ち上げて腰を痛めるなんて本末転倒ですよね。

パルクールもトレーニングから生まれたものなので、まずは安全な範囲でやることを約束してほしいです。その上で、自分が精神的に、肉体的にどういう反応をするのか、探求の旅を楽しむと、どんどん上達していくと思います。

今はレッスンをしているところも増えたので、気軽に習ってみるのも一つの手でしょうね。みんながみんな、公園でいきなり始められるわけじゃないので。

固定概念を壊し、“可能性”という衝動を与える「表現」へ

競技や映像の発信だけではなく、今年は初のアート個展をするなど幅広く活躍されていますね。

僕はパルクールアスリートでありつつ、表現者でもありたいと思っています。そのテーマの一つは、「物事の捉え方や見方はそれぞれ違っても、それでいい」ということ。それをよりわかりやすく、衝撃とともに伝えるために、視覚的な伝え方ができたらいいなと思って活動しています。目の前にあるモノやコトを、もっと独自の解釈で、それぞれの世界を生きていいんじゃないかなと思ってるんです。

自分自身の状態や考え方が変わると、今までつまらなかったことでも面白く見えてきたりするし、逆に今まですごい面白いと思っていたことでも、今の自分には面白くないなと気づくこともある。そもそも、ずっと一定であり続ける必要もないんです。

もう一つは、僕がパルクールに「人間はこんなにも動ける」という可能性を教えてもらったように、みんなにも「自分にも可能性があるかも」という衝動を感じてもらいたい。そのための手段として、自分が今一番的確に表現できる手段を選びながらやっていますね。

あるときはアスリートとしてチャンピオンになることで、そのプロセスを見てもらう。あるときは、映画や舞台でアクション要素のあるお芝居をしたり。動画ではパルクールという動きそのものを伝えてきたけど、今度はあえて写真でその一部だけを見せることにチャレンジしてみたり。そうすると、こんな動きするんだ!という衝撃が、どこから飛んできたの!?という衝撃に変わって、見たことのない動きをお客さん自身が想像してくれるようになる。受身の状態じゃなくて、そこに鑑賞者が参加できるような楽しさをもっと作りたいです。

僕は、そういう活動を生涯続けていきたいと思ってます。それが僕自身の喜びでもあるし、楽しみでもありますね。

10月から、ワールドツアーにいかれるそうですね。

はい。さまざまな国で旅をしながら、その土地ならではの自然環境や、時には歴史的建造物でもパルクールをしています。パルクールだけではなく、人や文化との出会いを通して何を感じたかなど、僕のライフスタイルも含めて発信していくプロジェクトです。

今年は既に中東の6カ国に行っていて、10月からはヨーロッパの3カ国行きます。ライフワークに近い感覚なので、これも続けていきたい活動の一つですね。

国によって自然環境や建造物が違うだけではなく、人の空気感にもそれぞれ違った魅力がありますよね。

そうなんです。来年は今年行けなかった国に行って、体一つでローカルのコミュニティと繋がっていく様子ももっと発信していけたらいいなと思っています。

アクションの部分はもちろん、ライフスタイルの部分でも、影響を与えられる部分があるかなと思っていて。公園で遊んでいる子どもって、木に登ったり、ジャングルジムに登ったり、好奇心のまま行動しているじゃないですか。僕は、その延長で生きてる人間なんですよね。こういう大人もいるということ自体が、大人はこうでなきゃいけないという固定概念を打ち壊す、一つのきっかけになればいいなと思います。

ZENさんは、昔から今のように主体性を持って行動されていたのですか。

幼い頃は、全然そんなことなかったです。例えばチームスポーツで負けたとき、原因っていろいろあるはずなんですけど、「別に自分のせいじゃない」って人のせいにしてしまうタイプで。いつも「何か面白いことが起きないかな」なんて考えて、すごく受け身だったと思います。

でも、パルクールという衝撃を通して、僕は全てが能動的になったんです。その感覚を広げることができたら、世の中も少しずつよくなっていくんじゃないかなと思っているんです。パルクールのアスリートとして、表現者として、少しずつでもいろんな形で影響を与え続けていく。そして、ひとりでも多くの人の可能性を開いていきながら、それぞれの人生を大切に生きれたらいいなと思います。

パルクールから教えてもらった“人間の可能性”を伝えるため、多様な表現を続けるZENさん。オープンマインドで情熱あふれる姿は、たくさんの人を勇気づけている根源だといえそう。次回は、ZENさんのライフスタイルや、自分を信じる秘訣について聞いてみる。

後編はこちら。「好奇心の先へ。ZENが語る、自分と向き合う時間が教えてくれること。『トキメキは自分の中にある』」

パルクールアスリート・アーティスト ZEN

15歳でパルクールと出会い、翌年に単身渡米。19 歳で日本初のプロパルクールアスリートになると、アジア人として前人未到の全米チャンピオンに輝く。2020年には世界大会優勝を果たした。パルクール普及に関わるあらゆる活動に従事し、表現者としての活動も行なっている。自身の生き方や作品を通して"人間の可能性"を伝えることをテーマとする『FREERUN ON EARTH』プロジェクトを立ち上げた。 各国のトップパルクールアスリートで構成され、世界のパルクールシーンを引率し続けるインターナショナルチーム『TEAM FARANG』の一員として世界中で活動を続けている。2019年度Newsweek 『世界が尊敬する日本人100』の1人に選出。2023年アート個展「SEE THE WORLD DIFFERENTLY」を開催。

Instagram:@zen_pk_official Youtube:@ZENSHIMADA WEB SITE:https://www.zenshimada.com/

撮影場所提供:パルクールデザインラボ

CREDIT

photo:Nanako Araie
styling:Hitoshi tocci Ishikawa
hair&make:Noriko Okamoto
edit&text:Hinako Masuyama

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PROFILE

HATSUDO編集部 by ヤマハ発動機

“トキメキ”発動中

HATSUDO編集部 by ヤマハ発動機

わたしたちを素敵な未来へ導く"トキメキの発動"にフォーカスし、その原動力を探求、発信しています。


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