人と比べず全てに胸を張っていい。小谷実由が語る「好き」から広がる世界
多彩な表現で活躍し、2023年4月にはPodcast「おみゆの好き蒐集倶楽部」を始めたモデル・小谷実由。ファンとのコミュニケーションを大切にする彼女が、何を想い、新しいことにチャレンジしたのか。また、彼女が日々発信する「“好き”がある人生」の魅力とは。
2023.10.20
INDEX
Instagramで「好き」を発信したことで広がった世界
モデルだけでなく、執筆家としても活躍されています。何かきっかけがあったのでしょうか。
元々ファッションや音楽が好きだったけど、愛猫・しらす、花、櫛など……好きなことがいっぱいあって、それをInstagramにアップしていたんです。そうしたら、いろいろなところから声をかけていただくようになりました。喫茶店が好きで載せていたら、好きな喫茶店を教えてくださいという取材が来たり、レコードを載せていたら、音楽関係の取材が来たり。Instagramで好きなものを発信していたことが、全てに繋がったんだと思います。
仕事で文章を書き始めたのは、好きな音楽を3つ選んで各100字くらいで紹介するという雑誌の小さいコーナーに声をかけてもらったことが始まりです。担当の方に「文章書けるじゃん!」って言ってもらったことがすごく嬉しくて、そこから少しずつ文章を書く機会が増えていきました。
元々、文章を書くのが好きだったんですか。
考えてみれば、子供の頃から書いて頭の中を整理するタイプでしたね。自分の気持ちを言葉にするのも好きだったから、日記も書いていました。先日、中学生から高校生までの日記を全部捨てましたが……。
捨ててしまったんですか!?
20代くらいまでは懐かしいなと思って読めていたんですが、30代になったらもう恥ずかしくて読めなくなって……(笑)。こういうことを書いてたなという、幸せな記憶だけ残っていれば十分だなって。
新しい挑戦のきっかけは「好きの見つけ方が分からない」というファンの言葉
InstagramではQ&Aでファンの方の質問にもたくさん答えていますね。質問者の状況や心情を想像しながら答えている姿が素敵です。
昔はパッと思ったことを言っていましたが、過去に失敗してしまったことがあって……今は、こういう風に書くと傷つく人がいないだろうかと想像したり、ちゃんと返したいと思うものは、よく考えられる心と時間の余裕がある時にだけ答えるとか、アウトプットを意識するようになりました。それ自体はいいことだと思うのですが、考えることが増えた分、言葉や文章にするハードルが少し高くなっているのは事実ですね。
でも、夕飯は何を食べるんですか?みたいな内容なら、深く考えずに勢いで返すこともあります。そういうライトなコミュニケーションができるのもSNSの楽しいところですね。
相手のことを考えながら、寄り添うことの大切さを痛感します。お悩み相談も多いですよね。
Q&Aコーナーには、お悩み相談もよくきます。どんな内容であれ、何か打ち明けてくれた人が少しでも軽い気持ちになってくれたら、と思いながら答えていますが、私にとっては新しい発見につながることもあります。
4月からナビゲーターを務めさせていただく事になったJ-
SNSは、自分から探さずともさまざまな情報が自動的に入ってきて、とても便利ですし、嬉しいこともあります。いっぽうで、情報を発信しやすい、受信しやすいからこそ、無意識のうちに人と比べてしまったり、「この程度で好きと言っていいのかな」と勝手に肩身が狭く感じてしまったりすることがあるのかなって。
本来、「好き」はとても個人的な気持ちで、それぞれの「好き」にあり方や温度、距離感があっていい。比べるものでもなければ、絶対的な指標があるわけじゃない。自分にとっての「好き」であれば、そのすべてに胸を張っていいんだと。「好き」を見つけるのは、他の誰かの尺度や経験によってではなく、自分次第だと思うんです。
蒐集は「好き」の色が増えていく感覚。Podcastで広がる新たなコミュニケーション
目の前の情報に振り回されず、自分なりの「好き」を自由に楽しむことが1番ですね。たしかに、小谷さんの仕事にも「好き」があるように見えます。
大好きな服をたくさん着れるんじゃないかとモデルになり、今もその仕事を続けられている私は、たくさんの「好き」に救われてきました。「おみゆの好き蒐集倶楽部」を始めたのもそうした経験からで、自分やゲストの「好き」を深掘りし、それぞれの考えやアイディア、思い出を大切に蒐集しながら発信することで、「好きなものの見つけ方がわかりません」という人が、ひとつでも自分なりの好きを見つける何かに出会えるようにという想いがきっかけなんです。
椅子・ミシン・俳句・香りなど、さまざまな「好き」を持つ素敵なゲストが登場していますね。
そうですね。皆さんが何かを好きになった過程にすごく興味があるので、どの回も面白いお話をたっぷり語ってもらっています。
番組の最後に「あなたにとって好きとは何ですか?」と必ず質問するのですが、皆さん答えが全然違うんです。「人生を楽しくする」、「明日も生きる理由」、反対に「ゴール」と言い切る人もいます。近い考え方なんだろうなと思っても、言葉の選び方がまったく違うことも。自分の中になかった価値観に触れていると、自分が何かを好きでいるときの「色」がどんどん増えていくような感覚があります。
聞いてくださる皆さんも、もし何かひとつでも共感できる気持ちがあったとしたら、自分にとってそれは何だろう?と置き換えて、考えるきっかけになってくれると嬉しいですね。
これまで文章や写真で発信される機会が多かったと思いますが、なぜ音声メディアを選んだのでしょうか。
最初から決めていたわけではなくて、これまでも関わりが多くあった紙媒体がベストなのか、どのような形態で発信していくことがいいのかを考えていました。そんな中、1ヶ月限定でラジオのナビゲーターの仕事をすることになり、そこで直接会話する楽しさを改めて感じる機会があったんです。聞かれたことに対してその時に考えて出た言葉はすごく自然で、本当に思っていることだと思うし、話がどう転がっていくか分からないという今まで体験していたものとは違う魅力にも気付くことができたので、音声メディアでやってみたいと思いました。
小谷さんといえば、Podcastのように考え方や思い出の蒐集だけではなく、櫛などモノの蒐集も楽しまれていますが、違う点はどんなところでしょうか。
集めるという意味では同じですが、考え方や思い出は、誰かの話を聞いていいなとか、覚えていたいなと思うような、今までの自分の中にはなかった外側から来る素晴らしい刺激の蒐集。モノは、自分の中にある記憶や好きな感覚と結びつけて、それらをまとめていく蒐集。
どちらも自分を豊かにする行動やスタイルだと思いますし、それが誰かのトキメキや「好き」につながるかもしれないと思うと素敵ですよね。これからもさまざまな蒐集をしてそれらを発信し続けていきたいです。
二回にわたってモデルや執筆業、Podcastなど“初めての始まり”について語ってくれた小谷さん。誰かと協力しながらものづくりをしてきた経験や、「好き」に救われてきた今までの想い、そして感謝こそが、芯が通った表現の軸になっているのかもしれない。
モデル・文筆家 小谷実由(おたに・みゆ)
1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとの コラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ。 2022年7月に初の書籍『隙間時間(ループ舎)』を刊行。4月からJ-WAVE original Podcast番組「おみゆの好き蒐集倶楽部」毎週金曜日配信がスタート。 Instagram:@omiyuno