「制約の中のバリエーション」にときめいて。金井球が語る、日常と表現の面白がり方
執筆やZINEの制作、Podcast番組『ラジオ知らねえ単語』の企画・出演、そして演技まで。肩書きにとらわれず活動を広げてきた金井球さん。流れに乗ってきたこれまでから、自分の手で人生を漕ぎ始める実感が出てきた今。日常の中にある小さな「ざわめき」や、心が動く瞬間を、自分だけの視点で楽しんでいる。そんな彼女のまなざしから、日常と表現を面白がるヒントを探っていく。
2025.10.03

INDEX
はじめは流れのままに。“わたしやん”に気づくまで
マルチに活動されていますが、表現活動を始めたきっかけは?
正直、すごく“ぬるっと”始まったんです。小さい頃から作文の成績がよくて、文章を書くのは好きだったんですけど、「これを仕事にするぞ」と決めた瞬間があるわけではなくて。Twitterをずっとやっていて、自分のツイートを読み返して「なんかこれ好きだな」と思ったり。自分のことを知る手がかりとして書いていた感じでした。
本当に自然な流れのなかで始まっていったんですね。
『ミスiD』(講談社主催のオーディションプロジェクト)も、ある女の子と仲良くなりたいからという理由で応募しました。演技も「好きな人に声をかけてもらったからやってみよう」くらいの感覚で。どれも、流れに乗ってきただけで、“自分で選んでいる”という実感はあまりなかったかもしれません。

結果的に活動の幅はかなり広がっていますよね。
そうですね。中でも、文章はやっぱり特別で、書くことよりも、書いたものを読むのが好きなんです。正直、「わたしが書いたと思えないくらい面白い」と感じることもあります。できることなら、もう一人の自分が文章を書いて、わたしがそれを読んでいたいくらい(笑)。
それはいいアイデアですね(笑)。他の人と比べてしまうことってないのでしょうか?
もちろんあります。モデルならあの子のほうが似合う、演技ならあの人のほうが上手い、文章ならあの人のほうが面白い……って。でもあるとき、お仕事で写真を撮られている最中に、急に「いや、わたしやん」って思えたんです。比べるのをやめられなくても、“金井球”であること自体が唯一性なんだなって。「このバランス感を持ってる人はそういないのでは?」と腑に落ちました。
そう感じられるようになるまでには、どんなことがありましたか?
小学生のころまでは「わたしの王国です!」というほど自信に満ちていましたが、途中でいじめにあい、自信を失ってしまって。中高時代はどこか取り繕って違う自分を演じている感じでした。でも、SNSで言葉を書き残していたら“いいね”をもらえたことが、自分を取り戻すきっかけになりましたね。“そのままの自分でいいんだ”と思えるようになったことが、今の自分をつくっている気がします。


歩くと、日常はエンタメになる。「きた!」とときめく瞬間
普段の生活の中では、どんなときにトキメキを感じますか?
わたしは“異様な大きさ”に弱いんです。前にバイトしていた場所で、空気清浄機が急にめちゃくちゃ大きいモデルに変わったことがあって。なんか心がざわざわして、意味もなくその前を通りがかったりして(笑)。そうすると、別の場所にある普通サイズの清浄機が急に可愛く見えるんですよ。そうやって、モノの見え方が変わるのが面白くて。遠くに巨大な仏像がドンと現れるみたいなシーンにも、ざわざわして、なんか嬉しくなっちゃうんです。
身近なものでも、違う姿に見えてくるんですね。
そうなんです。あと色にもフェチがあって。街で赤・青・緑・黄色が同じ画角で揃う瞬間に出会うと、めちゃくちゃテンションが上がります。よくあるのは、コーンの赤、草の緑、点字ブロックの黄色、そして看板の青。そこに、たとえば黄色い自転車とか、予想外のモノが混ざるとさらに最高。同じ4色でも、ちょっと外れたバリエーションに出会うと「きた!」ってなるんです。この前なんて、公園に置かれてた車のおもちゃがまさに赤・青・緑・黄の4色で。「完璧!」と一人でめっちゃテンション上がりました(笑)。
そういう瞬間って、どこに惹かれているんでしょう?
たぶん、「制約の中のバリエーション」が好きなんです。映画『ティンカー・ベル』で妖精たちが役割ごとに枝分かれしていく感じや、アイドルのMVでメンバーごとの部屋がある演出も。短歌も、31文字という枠の中で「こう来たか!」ってなるのが楽しいじゃないですか。同じ枠の中にある“違い”とか、“揃った瞬間の気持ちよさ”みたいなものに、つい反応してしまうんです。
そういう視点があると、どんな場所でも楽しくなりそうです。
電車だと景色がただの「移動」になっちゃうけど、歩くと一気にエンタメになる。だから、街を歩くのが好きですね。
前住んでいた家のちかくで、なにげないスーパーの帰りなんですけど、ぬいぐるみを真空パックに詰めてカビを生やすという展示が行われていて、とても嬉しかったことがあります。いつもと同じ日常をすごしていて、突然、"異質なもの"が現れたことにグッときたのかな…。結局、カビていないぬいぐるみを買って帰ったんですけど、かわいすぎてかわいそうで、パックから出しちゃった(笑)歩いていると、そういう"報酬"みたいな時間に出会えることがあります。

街は基本グレーだけど、だからこそ色や異質感がくっきり浮かび上がる。その瞬間を自分で見つけるのが楽しいです。
あと、見つけるだけではなく、やりきる瞬間にもグッときます。短時間に予定をギュッと詰めるのも好きで。たとえば、7月の参院選の日は16時からオンライン打ち合わせがあったんですけど、14時半に家を出て、はなまるうどんでご飯食べて、投票して、ユニクロで買い物をして、恋人の忘れ物を取りに行って……ギリギリ帰宅できたんです。そのときの“忍者みたいな気持ち”が熱かった(笑)。短時間で全部達成できると、インスタントな高揚感があるんですよね。


自分の人生を、自分で漕いでいく。未来へのワクワクが増えてきた
これからのことについて、最近考えるのはどんなことですか?
22歳くらいまでは、「来るもの拒まず、去るもの追わず」みたいなスタンスで、“自分の人生”を生きている感覚があまりなかったんです。でも最近は、少しずつ自分の人生を自分で漕いでいる感覚が出てきました。
きっかけがあったのでしょうか?
俳優の園凜と一緒に『ラジオ知らねえ単語』を始めて、もう2年続いているんですけど、台本を書いたり、ビジュアルを決めたり、本を作ったり……ちゃんと踏ん張らないとできないことも多くて。でも、それを楽しみながら、自分の足で踏ん張れるようになったことが大きいですね。

そうした変化や成長を経て、今後楽しみなことはありますか?
おばさんになるのが、楽しみになってきました。前は「中身がないけど可愛らしい」で、いつまでやっていけるんだろうという不安もあったけど、いまは中身を伴った大人になれそうだなと感じています。 内面だけじゃなくて、外見のことにもワクワクしていて。おばさんになったらやりたい髪型が1000個あります(笑)。たとえば水色のボブとか姫カット、ファッションだとヘッドドレスみたいな装いも、今やると“それをやってる人”になりすぎちゃう。でも、年齢を重ねたらスパイス的に取り入れられると思うので、想像するだけで楽しくなります。
今後の活動について、やってみたいことがあれば教えてください。
「なにがメインです」と言わない感じがわたしらしくて心地良くもあるんですけどやっぱり文章が好きなので、どこかで文章を活動の軸にできたらいいなと思っています。まだ分からないこともたくさんあるけど、これからの自分がどうなっていくのか、ちょっとワクワクしています。


金井 球(かない・きゅう)
2001年生まれ。東京都出身。2022年、講談社主催のオーディションプロジェクト「ミスiD2022」でグランプリを受賞。寿司屋のバイトを「賄いに寿司が出ない」という理由で辞めたこともあったが、現在は執筆やZINE制作、Podcast番組「ラジオ知らねえ単語」の制作・出演、演技など、精力的に活動の幅を広げている。
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