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初めての始まり。

同じ波は二度とない。サーファー兼花屋・松野陽斗の自然と調和する日々

花屋「松野緑店」の店主として季節を束ね、プロサーファーとして波と遊ぶ。
静と動を行き来しながら、自然のサインに耳をすませる日々を送る、松野陽斗さん。
「同じ波は二度とない」。そんな一瞬の出会いに身をゆだねながら、自分の“やってみたい”という感覚に正直に動き続けてきた。海と花のそばで、季節や人とのめぐりに寄り添いながら暮らしてきた松野さんの、自然と調和する日々をたどる。

INDEX

同じ波は二度とない。“勝つため”から“波に寄せる”スタイルへ

サーフィンを始めたのは、どんなきっかけだったんですか?

始めたのは5歳くらい。父と兄がサーフィンをしていて、実家も茅ヶ崎の海のすぐそばだったんです。だから“遊ぶなら海”という感じで、ごく自然な流れで自分も始めました。でも実は、始める前は海が怖かったんです。小さい頃って波の音も大きいし、足も届かないし。5歳から始めたとはいえ、小学校の途中くらいまでは、距離を置いていた時期もあります。

そこからまた、どうして戻ろうと思ったんですか?

普通は小学校の放課後、サッカーとかドッジボールとかすることが多いじゃないですか。でも地元だと、放課後に集まるのが“海”なんですよね。何か目標があったとかじゃなくて、「みんなでサーフィンで遊びたいから」という理由で自然と戻っていったんです。

本格的にのめり込んでいったのは、いつ頃ですか?

小学校の高学年くらいからですね。中学生になるころには、ほぼ毎日海に入ってました。大会にも出るようになって、負けず嫌いだったこともあって、「誰よりもうまくなりたい」っていう気持ちがどんどん強くなっていって。学校に行く前のまだ暗い時間から海に入っていた時期もあります。

大学を卒業したタイミングでプロ資格を取って、そこから5年くらいは競技に打ち込んでいました。でも、そこで初めて、自分よりうまい人が本当にいっぱいいるって思い知らされたんです。

そこから、気持ちの変化はありましたか?

ありましたね。正直、自分は“勝つためのサーフィン”に、そこまで向いていないのかもと思い始めたんです。結果が出ないことも多かったし、性格も含めて競技に対するハングリーさが、自分にはちょっと足りなかったのかもしれません。
でも、結局サーフィンが大好きなので。それからは、クラシックなスタイル、いわゆる波に寄せるようなサーフィンにシフトしていきました。

「波に寄せる」って、具体的にはどんな感覚ですか?

競技用のサーフィンは、技の華やかさや難易度でスコアを競います。でも今のスタイルは、“波と調和する”ような感覚。波のラインを読み取って、それに沿って身体を合わせていく。自分ではなくて、波をどう魅せられるかを楽しんでいます。

波をどう魅せるか……面白いですね。

サーフィンの一番面白いところは、同じ波が二度とないということ。自分の都合じゃどうにもできない自然に対して、そのときの自分のコンディションで向き合うしかないんです。そこに合わせていく感じが面白いし、もうずっと飽きないですね。

毎回違う面白さがありそうです!気持ちの面ではどんな影響がありますか?

サーフィンって、自分でも気づかないうちに心が整ってるんです。海に入る前と上がった後では、自分の表情が全然違うんですよ。ちょっと毒が抜けたみたいな、スッとした顔になってて、自分でも分かるくらい笑顔も自然に出てきます。

今日は残念ながら波がなくて乗れなかったので、100%の笑顔は出しきれなかったんですけど……。

こういう日があるのも、自然相手のスポーツならではですね。またぜひリベンジさせてください!

ぜひ!でも、サーフィンをしない日でも、自然の水に触れるだけで、そういう“浄化される感覚”はあるのかもしれないです。

分かる気がします。松野さんがサーフィンで特にときめくのは、どういう瞬間ですか?

台風シーズンですね(笑)。サーフィンをしない人にとっては「嫌だな」と感じるかもしれないけど、波が生まれるので、サーファーはみんなソワソワするんです。どのコースを通ったらいい波が来るか、風向きはどうか、ずっと天気図とにらめっこして。「明日、絶対いい波来るぞ」ってときは、朝4時に出て、長いときは8時間くらい海にいることもあります(笑)。

特に、台風が通り過ぎたあとの“北風に変わるタイミング”は最高です。風が変わることで海の面が整って、バシャバシャしていた水面がピタッと静まり返って、そこにうねりだけが残る。だから、きれいな波がパーフェクトに割れるんです。あの瞬間に出会えると、本当に「来てよかったな」って思いますね。

季節を知らせて、心に触れる。花が持つ静かな力

プロサーファーになってから、花屋の活動も始めたと思いますが、どういうきっかけだったんですか?

高校生のとき、近所のスーパーでたまたま花屋の短期バイトの募集の張り紙を見かけて。ちょうどサーフィンの遠征費を稼ぎたかったので、「これでいいか」くらいの気持ちで始めたのが最初です。

最初から花に興味があったわけではなかったんですか?

全然なかったです(笑)。花の名前も種類もわからない、どこにでもいるような高校生でした。家に花を飾る習慣もなかったですし。でも、その店がいわゆる“ザ・花屋”という感じじゃなくて、野に咲く草花みたいな、ちょっと自然寄りな雰囲気のところだったんですよね。そういう空気感には、自然に囲まれて育つ中で、どこか惹かれるものがあったのかもしれません。

それが、今独立するまで続くことになる経緯が気になります。

想像以上に面白かったので、大学時代もサーフィンの大会に出ながらバイトはずっと続けていたんです。そんな中で、今も忘れられない出来事があって。

ある日、奥さんを亡くした友人のために花を探しに来たお客さんがいて。そのお悔やみの花束を、僕が担当して作ったんです。後日、その方がもう一度お店に来てくれて、「あの花を渡したとき、それまで泣かなかった旦那さんが泣き崩れたんです」と伝えてくれて。

その瞬間、「自分の手で、人の心を動かすことができるんだ」と思いました。花って、こんなに力を持ってるんだって胸がいっぱいになって。ちょうどその頃、コロナでサーフィンの大会も全部中止になっていたので、「自分でも始めてみよう」と思ったんです。

実際にやってみて、どうでしたか?

今は週に2回、朝2時半くらいに出発して市場に行ってます。最初は自分にできるか不安もありましたけど、実際に通ってみると、どのお花屋さんも本気で“いい花”を探しに来てるんですよね。遠くから通ってる人も多いし、みんなの熱量がすごくて。そこに立っていると、背筋が伸びるような感覚があります。

花を選ぶときに、大事にしていることはありますか?

自分がいいと思うものしか、仕入れないって決めてます。誰かに頼まれても、自分が納得できない花材だったら断ることもあります。花って、手に取る人の気持ちにすごく近い存在だから、自分が「いい」と思えないものを届けたくないんですよね。

花屋として、日々の中で“ときめく”瞬間はありますか?

季節を花で感じる瞬間ですね。僕たちの仕事って、気温じゃなくて、花で季節の移ろいを知るんです。たとえば、冬なのにチューリップが市場に並び始めたら、「もう春が近いんだな」って感じるし、ヒマワリを見たら「もうすぐ夏だ」って思う。

その“ちょっと先の季節”を、誰よりも先に見せてもらってるような感覚があるんです。高揚するようなトキメキというよりは、「ああ、また季節が進んだな」と静かに沁みていくような。そういう瞬間が、やっぱり好きですね。

その感覚、すごく素敵です。

誰に伝わるわけでもない、自分だけの感覚なんですけどね(笑)。でも、季節がちゃんと巡ってきたことを、花を通して実感できるって、なんか安心するんですよ。

“やってみたい”を信じて動く。始まりは、整ってなくていい

サーフィンや花も、何かを始めたり仕事にもすることに対してのハードルってありましたか?

僕、ほんとは結構億劫なタイプなんですよ。でも、逆に言えば、そこを越えてでもやりたくなることしかやってない、というか。そこまでの感覚が立ち上がってこないと、動けないタイプなんです。

興味があるものへの“嗅覚”が鋭いのかもしれませんね。

そうかもしれないです。やっぱり、好きじゃないと突き詰められないし、逆に「やってみたい」と思っていたのにやらなかったことって、あとからすごく後悔するんですよ。

たとえば、ワーホリに行っとけばよかったなって。30歳までっていう年齢制限もあるのに、タイミングを逃してしまって。オーストラリアに行けていたら、サーフィンも自然も豊かだし、もっといろんな経験ができたんじゃないかなと思います。

だからこそ今は、「これはやってみたい」と思ったら、素直に動いてみようと決めています。そんな“嗅覚”を信じた方が、人生はきっと豊かになる気がしていて。

これから、やってみたいことはありますか?

花屋として、実店舗を持ちたいです。今は定期便やギフトの発送、イベントやカフェでのポップアップが中心なんですけど、やっぱり自分が選んだ花を、その場で見てもらえる空間がほしいなと思って。

定期便を受け取ってくれてる人たちにも、「最終的にこの花、こうなったね」って、見届けられる場所があるといいなと。花やサーフィンを通して出会った人たちが、季節を感じながらふらっと立ち寄ってくれる、そんな空間をつくれたらと思っています。

素敵な場所になりそうです。サーフィンでも、何かやってみたいことがあるのでしょうか?

地域の子どもたちと関わる時間も、自分にとってすごく大切になってきました。幼なじみのプロサーファーと一緒に、茅ヶ崎でキッズ向けのイベント「Yellow Peanuts」を主催していて、現役のプロと子どもたちがチームを組んで一緒に海に入るような機会をつくっています。

親御さんが移住して、サーフィンをさせるためにこの地域に来てくれることもあるけれど、次にコミュニティをつくっていくのは、ここで育つ子どもたちだと思っていて。だからこそ、サーフィンの競技的な面だけでなく、「こんな楽しみ方もあるんだ」という“枝分かれした魅力”にも、出会ってもらえたらいいなと思います。次の世代が自然とつながっていけるような、架け橋になれたらと思っています。

サーフィンを始めてみたい人へのアドバイスも、ぜひお願いします。

実は日本は、初心者にもやさしい環境が整ってるんですよ。湘南や千葉、九十九里とか、レベルに合わせて選べるビーチがたくさんあるし、ちゃんと教えてくれるスクールも多い。湘南だと、鵠沼は足もつくし波も穏やかで、サーフショップも多いから、はじめての人にはおすすめです!

最初から道具をそろえなくても大丈夫。まずはレンタルで体験してみて、「もっとやりたい」と思ってから、自分に合った板を選べばいいんです。ちょっとでも気になってるなら、まずは一度、海に入ってみてほしいですね。一度でも波に乗れたら、海とつながるような、不思議な心地よさが感じられると思います。

撮影場所協力:27 COFFEE ROASTERS CHIGASAKI

松野陽斗(まつの・あきと)

1993年12月生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身。
2016年にプロサーファーとしての公認を取得し、大学卒業後は競技生活に専念。コロナ禍をきっかけにコンペティションの第一線から退き、花屋「松野緑店」を立ち上げる。
現在は店舗を持たないスタイルで花の仕事を続けながら、ツインフィンやミッドレングスなどに乗ってサーフィンの魅力も発信。地元・茅ヶ崎では、子ども向けのイベント「Yellow Peanuts」の主催も行う。

Instagram:@akitomatsuno

CREDIT

photo:Kyohei Hattori
edit&text:Hinako Masuyama

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PROFILE

HATSUDO編集部 by ヤマハ発動機

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HATSUDO編集部 by ヤマハ発動機

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