中山もゆか「心がほどけるやわらかな時間。感情の余白を、ていねいにたどる」|トキメキが発動する10の瞬間
人生に大きな影響を与えた運命の瞬間から、日々の小さな幸せまで。トキメキが発動する10の瞬間を語る「10 MOMENT」。
今回の語り手は、高知県出身のモデル・中山もゆかさん。光や風のなかに自然と溶け込むようなやわらかさと、凛とした空気感。彼女の澄んだ瞳に映るのは、海辺の空気や植物、誰かのこだわりややさしさ――日常のなかに潜む“トキメキ”を、ていねいにすくい上げていく。
「考え方が少しずつ変わっていくような出会いが、いくつもありました」と語る彼女の、トキメキが発動する10の瞬間とは?
2025.06.27

INDEX
1.植物を眺める時間
一輪挿しから始まった、植物との日々
植物に惹かれるようになったのは、大学生の頃。一輪挿しをもらったのをきっかけに、試しに花を生けてみたのが始まり。毎日眺めているうちに、いつのまにか夢中になっていました。今では、散歩の目的が“植物”になることもあります。道ばたの野草や、名も知らない花につい目がいってしまう。東京には、育てている人の個性が感じられる花壇が多くて、思わず立ち止まることも多いです。
ある日、家の前の木にピンクの芽が出ていて、「お花かな?」と思ったら、紅葉の新芽でした。見慣れていたものに知らない一面を見つけたときや、季節の移ろいをふと感じる瞬間にも、トキメキを感じます。
部屋には、ガジュマルやベンジャミン、小松菜の再生栽培など、いろんな植物を飾っています。外でも家でも、草木に目を向ける時間は、気持ちが静かになって、かたちや色の美しさや、生きものとしての不思議さに心が向かいます。私にとって、ちょっとした瞑想のような感覚です。
2.好きが詰まった文房具で綴る時間
小さなこだわりにときめく、ミニマルな文房具たち
文房具は、昔からずっと大好きです。友達と一緒に文房具屋さんに行って、「次のノートどうする?」と相談したり、「このペン書きやすいよ」と情報交換したり。小学校から高校、そして今でも続いている時間で、一緒に盛り上がれる友達の存在も含めて大切です。
ときめくポイントは、ミニマルなデザイン。無駄がないのに、素材感や色味、質感にちょっとしたこだわりがあると、ぐっと惹かれます。たとえば、今愛用している〈ジェットストリーム プライム〉。中のインクリフィルがプラスチックではなく金属製で、「そんなところまで!」と感動しました。
手帳は毎年同じシリーズ。ペンも「これ」と決めたものを使っています。予定には赤青鉛筆で線を引いて、色数は控えめに。思ったことをどんどん書いていくうちに、「あ、そうか」と気づいたら、そのまま「あ、そうか」って書いたりもする(笑)。書くことで、自分の気持ちが整理されていくような気がするんです。気分を変えたい日は、公園に持って行って、外で書くことも。
お守りのようにそばにある文房具たち。これからも、きっと変わらずこだわり続けてしまうんだろうなと思います。
3.自分だけのルールでお弁当を味わう時間

「今日はどれから食べよう?」という小さな冒険
お弁当って、ひとつの箱に世界がぎゅっと詰まっていて、こだわりが見えるところが一番のトキメキ。家族が作ってくれたもの、お弁当屋さんのもの、自分で作ったものも、ふたを開けて「何から食べよう?」と考える時間が楽しくて、食べながら自分の中でランク付けしています。卵焼きはシード1位。でも、あまり期待してなかったお惣菜が思いのほか美味しかったりして、暫定順位がどんどん入れ替わるのも面白いんです。
晴れた日は、自分でお弁当を作って公園へ。自然の中で食べるだけで、いつもより特別な時間になります。近くで保育園児のかけっこが始まったりして、にぎやかな風景の中で「どのおにぎりを最後にしようかな」と考えることも好きです。きれいに詰まったお弁当を、自分なりのルールで味わうことは、小さな冒険みたいなものです。
4.大将たちとの会話で決まる買い物の時間
おすすめを聞くところから、今日のごはんが始まる
今の家のまわりには、昔ながらの個人商店もちらほらあって、酒屋さんや魚屋さんにはすっかりお世話になっています。
たとえば酒屋さん。おすすめを聞くと、本当に楽しそうに話してくれて、「この飲み方ならこれですね」「それが好きなら、これもきっと」と、会話をしながらお酒を選んでくれます。ちなみに、最近のお気に入りは、壱岐の蔵酒造の『無一文』という麦焼酎です。
魚屋さんでは、私は基本おすすめしか買わないスタンス。おすすめを聞くと、「今日はこれ!」という日もあれば、「今日は……」と言いよどむ日も。その誠実さが信頼できるし、どれも本当に美味しい。なかでも牡蠣は絶品で、食べて泣きそうになったこともあるくらい。もう、あそこ以外の牡蠣は食べられないかも…と思うほどです。
八百屋さんは個人商店ではないけれど、“安さ”という視点で尊敬しています。価格を週ごとに観察して、今日は買い時かもと見極めるのがちょっとした楽しみ。ほうれん草が100円の日のうれしさ、わかってくれる人がきっといるはず。風の匂いや空の色と一緒に、八百屋さんの値札までもが、季節を知らせてくれるように思います。
5.心が満たされる高知の海
「海へ行こう」が、すぐそばに
自然豊かな高知県で育った私にとって、海はいつもすぐそばにあるのが当たり前でした。大学帰りにふらっと立ち寄ったり、週末に家族と出かけたり。なかでも特に好きだったのが、「大岐の浜」。視界がぐっと抜ける静かな海と、広々とした砂浜があって、実家からは車で2時間ほど。それでも、何度でも足を運びたくなる、不思議な魅力があります。
東京に来てからは、きれいな海に“行く”ということ自体が特別になってしまいましたが、心がざわついたときには、気づけば「海に行こう」と口にしています。靴を脱いで砂の温度を感じたり、波を足に当てたり、貝殻やシーグラスを拾ったり。海にいると、海以外のことが考えられなくなる。波の音に耳を澄ませているだけで、心がすーっと満たされて、心のくすみをそっと取り払ってくれるような気がするんです。それが、私にとってのトキメキです。
東京でも、「この道、高知に似てるかも」と感じることがあったり、「高知県産」と書かれたニラやゆず、生姜、ナスなどを見つけると、つい手に取ってしまいます。そんな風に、ふるさとを感じられる瞬間にも、トキメキがあります。そして同時に、もっと多くの人に、高知のことを知ってもらえたらうれしいです。
6.お笑いで心が軽くなった瞬間

癒しや趣味を超えて、自分の一部
お笑いが好きになったのは中学生の夏。たまたま見たノンスタイルの漫才で、ひとりで大笑いしてしまったのが始まりでした。そこからM-1を毎年楽しみにするようになって、いまでは誕生日より大切なイベントです(笑)。気になった芸人さんの過去のネタをYouTubeで掘り起こしたり、ライブに行ったりもして、見てない動画はもうないんじゃないかってくらい観てきました。
お笑いって、ただ笑うためだけじゃなくて、悲しいときや疲れたときも、そっと隣にいてくれる存在だと思っています。スマホで検索すればすぐに会えるし、その瞬間だけでも気持ちがふっと軽くなる。だから、私にとってお笑いは「癒し」とか「趣味というより、自分の一部みたいなもの。
日常でも、芸人さんのボケやツッコミがふと頭に浮かんでしまうんです。友達との会話のなかでもつい引用しちゃったりして。「あ、通じた!」と嬉しくなることもあるし、伝わらなくても、こっそり楽しめるのがまたいい。お笑いが、ただそこにあってくれること。それだけで、ありがたいです。
7.手書きの便りが届いた瞬間

“元気しゆう?”に、涙がこぼれた日
家族や友達が送ってくれる手紙や贈り物にある、手書きの文字――そのひとつひとつに、気持ちが宿っている気がします。宛名に自分の名前が書かれているだけでも、ときめいてしまいます。
ある日、実家から届いた荷物には、大好物のチャンバラ貝やアジの干物、破竹(はちく)など、高知の味がぎゅっと詰まっていて。地元の新聞紙に包まれたそれらを見て、離れていても思ってくれているんだなと、あたたかい気持ちになりました。
手紙も同じです。東京に出てきてから会う機会が減った友達が、ふいにくれた便り。土佐弁で「元気しゆう?」と書かれたポストカードを見た瞬間、涙がこぼれました。中に綴られていた言葉も、「帰ってきいやー!」ではなく「話したいことがあれば話そう」くらいの距離感で、それも心地よくて。今も、大切に部屋に飾っています。
年賀状も、いまでも書き続けています。お世話になった先生や、アナログなやりとりを楽しんでくれる友人たちに向けて、一枚ずつ、絵や言葉を添えて。最近は「健康でいてね」という気持ちばかりですが、相手を思って手を動かす時間も、私にとっては大切なトキメキのひとつです。
8.何度見ても惹かれてしまう俳優 トム・ハンクス

ちゃんと映画を見せてくれる人
洋画にはあまり縁がなかった私ですが、なぜか何度も見返してしまう俳優がいます。それが、トム・ハンクスです。きっかけは、友人がふと口にした『フォレスト・ガンプ』という映画のタイトルでした。
なぜかその名前が頭に残っていて、ある日、夜行バスで東京へ向かう道中にふと思い出し、なんとなく再生してみたんです。朝方、眠いはずなのに、途中でやめられなくて。見終わる頃には、すっかり彼が演じるフォレストという人物に惹かれていました。声を聞きたくて、お風呂でも流していたほどです。
繰り返し観るうちに、彼の走り方のクセや、少し情けなくて健気な表情にもときめくようになり、やがて“トム・ハンクスその人”のことも大好きになっていました。それからは出演作を次々と観るようになり、まだ観ていない作品があることすら幸せに感じます。演じるたびに別人になっているのに、なぜか“トム・ハンクスらしさ”がにじみ出ている。でも、映画が始まれば、そのことさえも忘れてしまうほど、自然にその人物として受け入れてしまうんです。
昨日観たのは、海賊に襲われる船長の役。緊迫したシーンにのめり込みすぎて、息苦しくなってしまったくらい(笑)。そんなふうに、彼は“ちゃんと映画を見せてくれる人”だと思います。彼をきっかけに、私の中で洋画の世界も少しずつ広がっています。
9.一見して“好きな色”が伝わる人に出会った瞬間

「好き」を貫ける人は、かっこいい
帽子も服も傘も、ぜんぶ桃色のマダムのように、一目で“何が好きなのか”が伝わってくる人に憧れます。街で見かけるたびに、なんだか嬉しくなってしまいます。
私の友人にも、持ち物や服、何を選んでも黒になる子がいて。思い返せば、祖母は紫のものを贈ると、決まって喜んでくれていました。私は白が好きなのですが、見た目にはあまり伝わらない気がします。だからこそ、“好き”が外ににじみ出ている人を見ると、つい惹かれてしまうのかもしれません。
宇宙の話を楽しそうにしている人や、電車を夢中で撮っている人。色に限らず、自分の「好き」や「楽しい」をちゃんと持っていて、それを貫いている姿に、ときめいてしまうのだと思います。
10.セリフを覚えるほど観た『大豆田とわ子と三人の元夫』

自分の言葉や感性を育ててくれたドラマ
2021年の配信開始から、気づけばもう100週以上。朝の支度中や通学の途中、夕飯を作りながら――日常のあらゆる場面で再生してきました。大学生の頃は、まるで音楽のように繰り返し流し、セリフを口ずさみながら過ごしていたほど。今では映像を見なくても、声を聞けば場面が浮かんでくるくらいです。
5周目あたりで、「これってそういうことだったのか」と腑に落ちた場面があり、そこからさらに何度も見返すように。不器用でチャーミングなキャラクターたちを、俳優名ではなく、役名や劇中のあだ名などで呼んでしまうほど愛着があります。
言葉にも、たびたび救われてきました。なかでも「面倒くさいっていう気持ちは、好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと、好きの方に近いんだよ」というセリフには、思わずうなずいてしまって。考え方が少しずつ変わっていくような出会いが、いくつもありました。
台詞で説明しすぎない余白のある描き方も魅力です。衣装やロケーション、色づかいまで丁寧に作られていて、見るたびに憧れが募る。作中の喫茶店まで訪れ、プリンアラモードを頼んで同じ席に座ったこともありました。
『大豆田とわ子と三人の元夫』は、私の言葉や感性を育ててくれた、大切な存在です。

自分の感覚を信じて、目に映る景色や、誰かの行動の奥にある気持ちに心をとめる。見逃してしまいそうなトキメキも、中山もゆかさんのまなざしには、たしかに映っていた。情報があふれる日々のなかで、何に心が動き、それをどう大切にしていくか。ていねいに心と向き合う時間の大切さを思い出させてくれるようだった。
モデル 中山もゆか
2000年生まれ、高知県育ち。透明感のある肌と澄んだ瞳、凜とした表情が特徴で、ビューティーからファッション、映像と各方面からオファーが絶えない。土佐弁を活かした文筆活動もおこなっている。
Instagram:@moyuka_
ヴィンテージのドレス¥24,200、シャツ¥22,000(LUIK☎03-5712-3520)、その他スタイリスト私物