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トキメキポスト

連載|すこし、遠回りをしていくから

最終回 - 最後の手紙 -〈勝呂亮伍〉

始まりがあれば終わりがある。
当たり前のことでいて、いつもそれを忘れてしまう。

この街を初めて訪れたのは、もう56年も前になる。好きな子がカメラを買ったので、一緒に写真を撮りに。
目的地へと向かう途中駅で車を持っていない私は彼女と合流して、彼女の運転でこの街へと向かった。シフトレバーを動かす手つきが妙に滑らかで、私はそういう部分に安心して惹かれていたのだと思う。写真は、数枚しか撮らなかった。

彼女とはその後、3年くらいきちんと会っていない。半年ほど前に見かけたとき少し痩せていて、東京に出てすっかり社会人になったのだと感じた。彼女は当時乗っていたジムニーを手放してしまったし、もう写真を撮ってなどいないのだと思う。

それからしばらくが経って、コロナ禍になり、ひとり、この街をよく訪れた。電車で向かいながらみえる平地とその先にある低い山々、その稜線を沿って伝う送電塔たちを眺めるのが好きで、わけもなく行っては帰るということをしていた。
あの時期をここで、揺れる電車のなかで本を読み耽り、静かな大切にしている音楽を聴き、流れていくだけの風景をただ眺めることで、やり過ごせていたから今があるのだと思う。その頃の写真たちをどうにか1冊の作品集にしようといろいろと思索している。

長く続いた連載も今回のこの記事で終わりを迎える。
最後の記事にと、この街へ行くことを決め、スマホの地図アプリで電車を調べる。よく訪れていた頃よりもこの街は遠くに感じ、音もなく流れていった月日のことを思う。
別れというのは、劇的なものよりも静かなものの方が多い。生活の折々によく顔を出していた人や物ごとは、住む場所や仕事などの変化によって顔を出さなくなり、次第に輪郭を失っていく。

久しぶりに訪れたこの街は古着屋や雑貨屋、おしゃれなセレクトショップなどができていて、近くにある大学の学生たちであろう人たちが楽しそうに街を歩き、かつてより活気があるように感じた。寂れてしまった街の古い建物を利用して小さい商いがきちんと成立するというのはやはりいいことだなと思う。
街のシステムを壊さずにきちんと共存していく。そういう変化を昔よりも楽しめるようになっていて、変わっていくことに少しの寂しさを感じるけれど、恐れてはいけないのだと思う。

この連載の最初の頃に写真は手紙と似ているということを書いた。
だからこの連載が誰かからもらった手紙のように、引き出しにしまっておいて、いつかのなにかのタイミングで、ふとした拍子に読まれることを願っている。

それまでは、どうかお元気で。

SHERE

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PROFILE

写真家

勝呂亮伍

1994年、神奈川県横浜市 生まれ。明治学院大学文学部芸術学科 卒業。第55回キヤノンフォトコンテスト アンダー30 ゴールド賞 受賞。 https://ryogosuguro.com/


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