連載|すこし、遠回りをしていくから
2024.07.01
vol.18 - 黒いビニルと雑草 -〈勝呂亮伍〉
とてもよく晴れた朝だった。
住んでいるマンションの前にある一軒家が知らぬ間に空き地なって、それからしばらくして、黒いビニールが被さった。
黒いビニールはいつかの風の強い日にいくつかが風にめくられて、乾いた土が宙に舞っていた。また、それからしばらくして黒いビニールの土地は、その空いた隙間を名前の知らない雑草たちが見事なまでの生命力で覆い尽くしていた。
なんの変哲もない朝だったはずなのに、そのことが妙に気がかりになり、名前の知らない駅へと自然と向かっていた。
通勤ラッシュとは反対の、山の方へと向かう電車に乗りこんだ。昔読んだか読まなかったかした哲学の本を読む。掴めそうで掴めない、けれどきっと掴めているんだろうと思わせられる内容と、高い建物が少なくなっていく車窓と電車の小刻みな揺れが今の私を表しているようでとても心地よい。
なんとなくで駅を降りてから輪郭の忘れた友人たちのことを思い出したり忘れたりしながら、しばらくその街を歩いてみた。
相変わらず景色は景色のままでいて、そこに佇んでいて、それが美しい。
いつの日かこういった日があったことを私は忘れるのだろう。そしてまた、唐突に思い出し、同じことを繰り返すのだろうと思う。
輪郭の思い出せないいくつかと、果たせたはずのそうしなかった約束事を抱え、日々は進んでゆくのだろう。
いつの日か、そこにあったはずの景色たちが報われることを信じて。