連載|すこし、遠回りをしていくから
2024.01.08
vol.9 - 暮らしの温度 -〈勝呂亮伍〉
クリスマスに風邪をひいてしまった。
熱を出すなんて何年ぶりだろう。
ひとり暮らしをしてから初めてな気がする。
ひとり暮らしの風邪は心細い、という話を聞いていたが、悪寒と頭痛でそんなことを考えている余裕はなかった。
溜まっていく予定と洗濯物たちを横目に、熱が下がることを祈りながらひたすらに眠る。
なんとか動けるようになったタイミングで連絡を何件か返す。
日曜日に母が東京に来るとのことだった。
風邪をうつしてはいけないので、自宅には寄らずに帰ってもらうことにした。2月末に開催する写真展やこれからの制作についてなど考えたいことが山ほどあるなかで、とりあえず休むために再び眠りについた。
朝になり、部屋の中からガサゴソと物音がして薄目を開ける。寄らないと言っていた母がどうやら様子を見に来たようだ。
ありがたい気持ちと話せない状態なのに根掘り葉掘り聞かれて、あまりにもしんどいので早々に帰ってもらった。
母は少し怒っていた。
が、扁桃腺も腫れ、熱も続いている状態でいつものように接しろというのは流石に無理がある。私は横になって寝ていたいのだ。
夕方になって目が覚めると、テーブルには子どもの頃によく食べていたバームクーヘンが置かれていて、冷凍庫にはクリスマス用のチキンが入っていて、少し笑った。
いくらクリスマスだからと言ったって、風邪をひいているときに食べるには無理があるでしょう。つくづく不器用だな、と思いながら短い感謝の連絡をした。
実家に帰ったら、できるだけ優しく接しようと思う。