服作りで心が満たされた瞬間。noriのパタンナー・デザイナーとしての原点
美しく可愛らしい曲線が目を引く「nori enomoto」デザイナーであり、RAINBOW SHAKEでパタンナーとしても活動するnoriさん。やりたいことが見つからず満たされない日々を送っていた彼女が「トキメキ」を感じた服作りの原点に迫る。
2023.12.29
INDEX
Zipeer、原宿系ファッション。noriさんのファッション「好き」の原点
noriさんがファッションを好きになったきっかけを教えてください。
小学校6年生で身長が160cmもあり、子供服で着られるものが限られてしまったんです。そこで、母が着るようなブランドを買うようになりました。レディースの服を着るようになってから、コーデを組むファッションの楽しさを知りました。中学2年生になるとZipperを読み始めて、原宿系ファッションに憧れていました。
たくさんあるファッション誌のなかでZipperを手に取ったきっかけはどんなものだったのでしょうか。
派手な色合いで、木村カエラさんが堂々とポージングしている表紙が目に飛び込んできて手に取ったのを覚えています。いままで見たことのない世界観で、Zipperに出てくるような人たちになりたいと思うようになりました。
それからは、母にお願いして、Zipperに載っているアパレルブランドによく連れて行ってもらいました。Candy StripperやRNA、原宿のNadiaなどいろいろなアパレルショップに行きました。
原宿系ファッションの服を着るようになってから、心境の変化はありましたか?
おしゃれをして外に出かけたい欲求がどんどん出てきてきましたね。おしゃれな服を着るのは学校が休みの日だけだったのが、学校から帰ってきてからコンビニに行くためだけに買ったばかりの服を着ていました(笑)。
自分の手で服が形になっていくことに心が満たされた瞬間
文化服装学院服飾研究科へ入学前に、大学でファッションの勉強もしていたんですよね。
将来の夢がずっとありませんでした。でも、洋服が好きで、ファッションに関わる仕事をしたいと思い、ファッション全般を学べる大学に進学しました。この頃は服を作りたいという気持ちもなく、ファッションに関わる勉強をしてみたくて、服飾系の学科を選びました。大学ではファッション全般を広く浅く学んでいました。
大学生時代を振り返るとどんなご自身でしたか。
やることもなくて、ずっと満たされていませんでした。やりたいことがない苦しさというか。生きてる感じがしなくて、自分がどこに向かっているのかも分からない。どうしようとずっと考えていた4年間でしたね。満足できるものも分からなくて、ライブや旅行に行くなどいろいろなことをしましたが、本当に楽しめることが見つからなかったんです。
その後、文化服装学院へはどういう経緯で進学したんですか。
ファッションが好きだから、就職活動はアパレルブランドを受けていました。販売職で内定も頂いていたのですが、「売る」という行為自体が得意なのか自問自答していました。同じ時期に、興味があって大学で服を作るゼミに入ったんです。当時は服作りが得意ではなく、独学で作る意気込みで入りました。自分で勉強しながらの作業でしたが、服作りの時間がすごく楽しかったんです。ミシンを踏むことが楽しくて、もっと服作りを学びたいと思い文化服装学院に進学を決めました。
それまでは服作りはしていなかったんですね。
学校にあるミシンを借りる程度でしたね。服作りに向き合うようになってからは、ご飯を食べるのも忘れるくらいずっと集中して制作をしていました。自分の手で服が形になっていくことに、どんどん心が満たされていきました。遊びとは何かが違う楽しさを発見して気分が高揚し、やりたいことってこういうことなんだと初めて気づいた瞬間です。
文化服装学院の授業では生地選びから始まり、パターンを引いて服を作り、ショーで発表するまで、服を作る流れをすべて実技で学びました。そのなかで自分が楽しいと感じた作業がパターンを引くことだったんですよね。それで、パタンナーという職業に就きたいと思うようになりました。
寄り添うパタンナーと寄り添わないデザイナー。真逆の取り組みが彼女のものづくりを支える
パタンナーとして就職して、ご自身のブランドも持つようになりました。今の心境を教えてください。
やりたいことを見つけることができたのは、一番大きな転機だったと思います。満たされない時期があったからこそ、やりたいことができる幸せを感じています。
パタンナーとデザイナーの仕事の両立はnoriさんにとってどんな刺激がありますか。
デザイナーに寄り添うパタンナーと、誰かに寄り添うでなく自分自身の表現を形にしていくデザイナーは真逆の仕事です。両軸で取り組むことで、それぞれの仕事に良い影響を与えています。例えば、パタンナーとしてデザイナーが手掛けたデザインを実際に服として組み立てることは、自分が想像しなかったデザインに触れることができて、刺激を受けます。私にとってはパタンナーとデザイナーの仕事の両立はものづくりに取り組むうえでとても良いバランスだと思っています。
共通する喜びはありますか。
デザイナーさんにも、お客さんにも、作ったものを見て喜んでもらえるのは同じ喜びですね。ものづくりが楽しいと思える瞬間です。
noriさんは夢がなかったと言っていましたが、その瞬間ごとに自分と向き合って前に進んでいるように感じます。
先のことを考えるのが苦手なのかもしれません。実際にやってみて、違うんだと気づいて軌道修正するタイプというか。本当にその時にならないと決断できないんですよね。
自分のことを一番よく分かってないなと感じています。まわりの友人から「それ違うんじゃない?」と言われても、とりあえず挑戦してみて、結局向いていないと気づくんです。友人からは「ほらね」と言われます(笑)。きっと、周りの友人の方が私のことをよく分かっているので、友人の言葉は大切にしています。
まわりの声を聞くことは仕事にも活かされているんですか。
人の意見を聞いて取り入れるのが得意だと思っています。パタンナーという職種もデザイナーの希望を聞いて寄り添い、より良い服作りをしていく仕事です。性格的に合っているのかもしれませんね。
自分の手で初めて服作りをした思い出を語るnoriさんの表情は「トキメキ」に満ち溢れていた。いまのパタンナー・デザイナーとしての彼女の原動力となっているのだろう。次回はnoriさんが自分らしく過ごしていくための「トキメキ」を探っていく。
パタンナー・nori enomotoデザイナー 榎本紀子(えのもと・のりこ)
1996年生まれ。共立女子大学被服学科卒業後、文化服装学院服飾研究科へ入学。その後、技術専攻に進学し卒業後RAINBOW SHAKEに入社。パタンナーとして活動しつつ2020年「nori enomoto」を開始。 Instagram:@37nori