今月のイラスト
2023.12.24
COZY CONER『ごちそう健忘症』〈ヤマグチナナコ〉
「なんておいしくて楽しい食事なんだ、この賑やかな記憶を絶対に忘れたくない」
...と思った日ほど、だいたい忘れてしまう。本当にすっかり、忘れてしまう。そもそも、すっかり覚えていない。
そういう夜を記憶に残すため、スマホで写真を撮るんだろうけれど...撮影に時間を割きすぎることがあんまり好きじゃない(あと"好きじゃない"という態度がかっこいいと思ってる)ので、撮ったとしてもブレていたり、寄りすぎてたり、抜けがあったりする。「友達が撮ってるし、あとで送ってもらおう」と撮影を放棄することすらある。そしてもちろん、送ってもらうことも忘れている。
11月に豊島へ行ったときの夜ごはんもそうだった。私を含めた3人+サポートメンバー(なんかバンドみたいな言い方になってかっこいい)でイベントへ出店し、その夜にお疲れ様会として島内のお店へ。
とにかく全ての料理が美味しくて、常に脳がパチパチと弾けるような。ワインをどんどん飲み、出てくる料理をモリモリ食べ、スープを底まで掬って、メインのあとに「もう少し食べたいな...」なんて言って、パスタを出してもらった。それももちろん食べ尽くし、デザートだって平らげた。
とにかく全てが美味しくて味覚に神経が持っていかれたのか、言語中枢はどんどんお留守に。後半からは、みんな3単語以上を発さない。「ああ美味しい」「ほんとにね」「美味しいわあ」「すごいねえ」...伝言ゲームのような会話が机を何周もする。朧げな記憶を辿っても、やっぱりこれ以上話していない気がする。(私が覚えていないのかもだけど。ちなみに、写真は送ってもらえた!ラッキー)
この日以外にも、美味しく楽しかった日ほど覚えていない。誕生日にパートナーと食べたディナー、クリスマスに友達が振る舞ってくれたパーティーフード、10年来の友人と食べた〇〇(共にした食事回数が多すぎて個別に思い出せない)、同業の先輩宅で昼から食べ飲みしたおつまみの数々....「あの日、美味しくて楽しかったな〜」と脳の引き出しを開けても、金ピカの紙吹雪がブワッと出てくるばっかりで、肝心の中身が見えない。比喩表現だけど、実際そんな感じなのだ。そのときの感情は覚えてるけど、肝心の「どういう空間だったか」「何を話したか」はボンヤリしている。しかしキラキラが何度開けても噴出するから、楽しかった気持ちだけは何度だって追体験できる。
脊髄反射で笑い、脳みそを介さず食べ飲みする。会話に対して変な気遣いがいらず、心から話ができる。そういう場だから、覚えられないのかもしれない。 普段は人が多いほど「自分が何を言ってるか」をコントロールしがちな自分は、その必要が(最小限に)ない空間へ行くと急に脳みそへ休暇を出すのだろう。勤務先で「この感じならもう早上がりしちゃいな」と言ってもらえる日みたいな。「やらないきゃいけないことが無いわけじゃないけど…そうなったら、遊ぶしかないでしょ!」的状態。自分事ながら、どうにも少し無責任で楽しげだ。
次の日を気にせず、たくさん食べてたくさん笑って、家に帰ったらぐっすり眠る。私の忘れっぽい脳みそのおかげで、この幸せはいつになっても新鮮に美しく、嬉しい。これからも脳みそは、楽しい時間が来るたびに金ピカな花吹雪を両手いっぱいに集め、引き出しへパンパンに詰め込んでいる。このキラキラ、集める必要ある?もっと入れておけるものあるんじゃない?メモとかしたら?てか写真撮った?…なんて、冷静に考えれば言いたいことはたくさんあるけれど。冷静じゃない私には、そんな言葉は届かない。