連載|すこし、遠回りをしていくから
2023.12.18
vol.8 - 冬の朝と缶コーヒー -〈勝呂亮伍〉
暮らしのなかにある、いくつもの小さな喜びに目を向けて起伏の少ない日々を編んでいく。
「なにも起こらない」という一見、悲観的な事象を目の前にして、そのなにも起こらなさについて私はひどく感動する。
冬の朝のしんとした空気が一番だ、と早朝のゴミ出しをしていて思う。
ひとり暮らしを始めてから去年までは、ほとんど毎日、朝の6時には起きていて8時には出勤していた。夜は制作と他のアルバイトをして、休みの日は写真を撮りに。
そういう日々を繰り返していた。
駅までの道で買う缶コーヒーのあたたかさと、澄んだ空気を感じて「今日もやるか~」と自然と思える、そういう冬の朝に救われていた。
その職場で出会った友人に久しぶりに会うと相変わらず元気そうだったけれど、少し痩せていた。
彼女が転職をして、それからの日々に起きたことを少しだけ聞く。
そういうとき、私はいつだってかける言葉を持ち合わせていないことに気付かされ、簡単な相槌しか口にできない。
きっと良くなるとかは、あまり口にしたくない。日々は考えもしなかったことが唐突に起こる。
それはここ数年で痛いほど身に染みていて、続いていく毎日がいつ終わるのかも、どう進んでいくのかもいまいち判然としない。
だから私は写真を撮り続けていようと、その小さく痩せた肩に誓ったりしている。