連載|すこし、遠回りをしていくから
2023.11.20
vol.6 - 小さくつぶやく -〈勝呂亮伍〉
覚えていることよりも覚えていないことの方が多くて、その中でどれくらいのことを思い出すことができるのだろうか。
写真を撮っていたり見返したりしていると、忘れていたはずのいくつかのことを思い出すことがよくある。
写真は記憶を呼び起こすための、ひとつの装置だと思う。
中学、高校と放課後によく行っていたファミリーレストランがあったこと。
ドリンクバーで何時間も時間を潰し、店員の人に迷惑をかけていたこと。
大学生の頃、毎週終電過ぎまで飲んで、夜の散歩をしながら友人宅に泊まり込んでいたこと。
誰がどこで寝るのかで盛り上がっていたこと。
ソファで寝るとき、ぬいぐるみを貸してくれていたこと。
そのまま少し寝て、近所の喫茶店にモーニングをしに行っていたこと。
だいたい二日酔いだから無言でトーストを齧って、コーヒーを飲んで解散していたこと。
そういういくつかの事柄を、私は写真撮りながら思い出していて、みんな元気で暮らしているだろうかと考えている。
きっと元気で過ごしているだろうから連絡はしないでおく。
君たちが引っ越す送別会のとき、いつものように泊めてくれて、そのとき送別会で撮ったチェキたちを眺めて、静かに、「どれもいい写真だ」と大切そうに小さくつぶやいてたこと。
その横顔を私は忘れないでいようと思う。