小谷実由が夢を実現するまで。緊張とトキメキが交差する運命の瞬間
モデル、執筆業、ブランドやクリエイターとのコラボ企画など枠にとらわれず多様に活躍する「おみゆ」こと小谷実由。周囲の人やファンも彼女らしさを理解し、支持し、ときに友達のように共感し合い語り合う。人を惹きつけ、すっと芯が通ったような魅力を放つ彼女の、輝きの原点に迫る。
2023.10.13
INDEX
幾度もの選択を重ねたこれまでの歩み
長年モデルを続けられています。これまでの時間を振り返ってみるといかがですか。
14歳のときからモデルをやっているのですが、始めた当初から雑誌のモデルになりたいという目標がずっとあったんです。でも、最初から仕事が立て続けにある状態ではなくて、願いを叶えられない時期は長かったと思います。そんな中でも、仕事をもらえること自体が嬉しくて、現場にいることがとにかく楽しかった。日々いただいた仕事ひとつ一つにチャレンジして、気付けばあっという間に時間が経っていましたね。
10代の移ろいやすい時期から続けること自体、簡単じゃないと思います。
高校を卒業する前くらいの時期だったかな。全然仕事がなくて、別のものに興味が湧いてきて、もう辞めようかなって思っている時期がありました。そんなときに受けた、あるCMのオーディションに合格して。自分が経験してきた中で一番規模も大きくて、たくさんの人が関わって作られる仕事だったんですけど、とても楽しい現場で。ここまで続けてきて良かったと思えたんです。やっぱりこの世界でまだ頑張りたいし、もっとこういう気持ちになりたいと思いました。
その気持ちにあのとき気付くことができたから、その後にまだまだ難しいことや辛いことがあっても、今もずっと続けられる仕事になっているんだと思います。
まさに運命の瞬間ですね。環境の変化もあったのでしょうか。
大学を卒業する前に親から「今後どうするの?」と聞かれて、この先のことを少し考えてみたけど、やっぱりこの仕事以外にはやりたいことが見つからなかったんです。雑誌のモデルになるという目標もまだ叶えていなかった。ずっと『装苑』に出ることが夢だったんですよね。だからいっそ、思い切って環境から変えてみよう!と、事務所を移籍しました。
今でも夢のようだったなと思うんですけど、新しい事務所に所属した直後にホームページに載っていた写真をたまたま見て声をかけてくださった方がいて、さっそく『装苑』に出られることになったんです。23歳のときでした。
もし、あのときのオーディションに合格していなかったらモデルを辞めていたと思うし、モデルを辞めていたら、今のような自分はいないですね。仕事で何か嬉しいなと思うことがある度に、続けてきてよかった……と常々思います。
仕事を通して見えてきた“想像力”と“感謝の気持ち”
自分を信じ続けてきたからこそ、今があるんですね。子どものときから意思が強かったのでしょうか。
幼い頃はかなりの人見知りだったし、一人っ子だからか、自分がよければいいやと思うタイプだったかも。人と違って浮いてても気にしないというか。むしろ、“誰かと違うものが好き”というほうがかっこいいとすら思っていましたね。
そういう時期ってありますよね。
そういう時期があってこそ今があるから、過去の自分を愛おしく感じることはあります。でも、仕事を通してたくさんの人と出会い、いろいろな経験をすることで変わっていく自分もまた感じていますね。
たとえば、自分一人だけの力で何かを成し遂げているわけではないと思う機会がすごく増えました。仕事があるのもオファーをくれる方がいるからだし、この仕事を自分のペースでできていることも家族やマネージャーさんの支えがあるからだし、周りに対する感謝の気持ちが強くなっていますね。
どんなモノやコトでも、いろんな人が関わっているおかげで自分が手にすることができるんだなと、そういう見えない背景をすごく想像するようになった気がします。
モデルという仕事を通して、感謝することの大切さに気付けたんですね。
そうですね。最初に入った事務所の存在が大きかったかもしれません。自動的に仕事が来るということは一切なくて、本当に大勢の人が所属していたから、その中でオーディションをもらうだけでも大変な環境でした。
まずはオーディションに声をかけてもらうために、自分という存在を印象付けなきゃ!っていろいろ考えるんです。「音楽が好きなんです」とか、「演技にも興味があります」とか、自分について一生懸命口にするんですけど、なかなか上手くいかなくて。考えるだけでも大変なのに、まして全部を一人で実行することなんてできない。ああ、こういうときにいろんな人の力を借りて実現していくんだって、身をもって実感できたのは大きかったと思います。
忘れられない始まりの瞬間。緊張とトキメキが交差するとき
さまざまな経験をされてきたと思いますが、いちばん印象に残っている瞬間は何ですか。
14歳のとき、モデルの仕事として初めてカメラの前に立ったときです。
行ったことのない駅に一人で行き、現場の出版社に入って受付をして、スタジオまでの道をずっと進んで行って。ここかなってスタジオに入った瞬間、今でも忘れられないくらいすごく緊張したことを覚えています。プロのメイクさんに初めてメイクをしてもらったり、衣装をたくさん準備しているスタイリストさんがいたり、目にするものが何もかも初めてで。何より、いざカメラの前に立った瞬間のトキメキは、今思い出してもドキドキするほどのトキメキでした。想像していたものと違う、ああこんな感じなんだ!って。私、モデルになったんだって実感が湧いたあの瞬間は、今でも忘れられないです。
お話だけでも思わずドキドキしてしまいました。どんな内容の仕事でしたか。
少女漫画のプレゼントページのモデルでした。着回し企画のように、今日は寝坊して遅刻しちゃったとか、今日はお休みでゆっくりとか、ストーリーがあるもので、表情に演技みたいなものも必要でした。今はSNSがあって、みんなで写真を撮ったり自撮りもできるけど、特にそういうものがなかった時代なので、カメラの前でなりきった姿と自分の本来のキャラにギャップがあり、なんだか恥ずかしくて。でも、それ以上に嬉しい気持ちと、とにかく楽しい!という思いでいっぱいでした。
天職って言葉があるけど、もしかしたらそうなのかなって、生意気ですけど、そんなことを思いました。当時、具体的にこうなりたいというイメージは特になかったのに、それでも急にふとそう思ったことに意味があるのかなと。今でも、その気持ちを信じてる部分がすごくあると思います。
幾度の選択を重ね、多彩な表現をしてきた小谷さん。初めてカメラの前に立ったときの気持ちを信じて行動し、目に見えにくいことまで想像して感謝を忘れないことが、彼女の輝きの根底にあるのかもしれない。次回はファンとのコミュニケーションや、新たなチャレンジであるPodcast『おみゆの好き蒐集倶楽部』について語る。
モデル・文筆家 小谷実由(おたに・みゆ)
1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとの コラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ。 2022年7月に初の書籍『隙間時間(ループ舎)』を刊行。4月からJ-WAVE original Podcast番組「おみゆの好き蒐集倶楽部」毎週金曜日配信がスタート。 Instagram:@omiyuno