連載|すこし、遠回りをしていくから
2023.10.09
vol.3 – 電線の多い街で –
〈勝呂亮伍〉
「知らない街を歩く」というのは不思議で、その街の雰囲気に、どこか一歩踏み込めないような、よそよそしさをつい感じてしまう。
はじめましての人との会話でお互いの共通項を探りながら少しずつ、少しずつ話をしている感覚に似ているな、といつも思う。
2、3時間も経てば、その街の、もしくはその人のことが、なんとなくわかってきて、何度か訪れたり会ったりしているうちに思わぬ魅力を発見したりする。
たとえば毎回、爪が綺麗に整えられていることだとか、駅前の花壇がきちんと手入れされていることだとか、バスに乗り遅れた人に気づいて待ってあげたりだとか。
そういう、その人にとってはごくごく当たり前で気にも留めていなかったようなことに、静かに心を動かされてしまう。
そういう優しさや丁寧さが好きだな、と思って歩いていたりすると、いつかの台風のためにした窓ガラスの補強対策がそのままになっていたり、それはもう部屋着にすべきでは?と言いたくなるようなヨレたTシャツを着てきたりするから、つい笑ってしまう。
街も、人も少し不器用で、私はそういうのが見え隠れする日々が続いていくことが、何よりも嬉しいのだな、と何度目かの電線の多い街でひとり想う。