連載|すこし、遠回りをしていくから
2023.09.25
vol.2 - 実家の風景 -
〈勝呂亮伍〉
実家にいて予定のない日はいつも、散歩をするようにしている。 あてもなく歩けば、幼い頃の記憶を辿ることもある。 子どものころには果てしなく遠くに感じていたあの場所も、簡単に歩いていけてしまうことを知る。すこし寂しい気もするが、いつでも行けることについ嬉しさを感じる。
散歩を繰り返すと、20余年暮らしているこの街にも知らない景色がたくさんあることに気付かされる。 少ない自動車の往来をいつまでも眺めていられる見晴らしの良い場所や、傾斜をうまく利用した美しい煉瓦屋根のマンション、駅もバス停もない辺鄙な場所にある廃墟のような公共施設(何度か探しに行っているけれど、あれから1度も辿り着いたことがないので、あれは幻だったのだと思う)など。 いくつかの新しい、誰にも教えないお気に入りの場所ができた。
当たり前だが、失われてしまった場所たちも多くある。家を建てる前に住んでいた借家は冴えないアパートになった。小学生の頃によく行った蕎麦屋はまっさらなコインパーキングに。幼稚園の頃、運動会をした分校は雑草の生い茂った空き地へと変わっていた。あれだけ大きいと感じていた分校は、なんだかとても小さく見えた。それをすこし寂しい気持ちで家へと帰っていたら、あの頃から変わらないであろう人参色をした屋根の家に1本の百日紅の花が咲いているが見えた。
私は家々の隙間から静かにそれを見つめる。