連載|すこし、遠回りをしていくから
2023.09.01
vol.1 - ぬるい風 -
〈勝呂亮伍〉
写真は手紙と似ている。
いつかの何かでそんなようなことを書いた。
届くか分からないけれど、届けているつもりで撮っているということ。
届かなくても、その人が健やかでいてくれたら何よりだということ。
変わらないつもりでいたけれど、いつしか誰かを想って写真を撮ることが減ったように思う。
思えば、昨年から仕事関係や友人関係など、暮らしの柱にしていた、いくつかの事柄が変化して、知らぬ間に「他者の生活を想う」という些細な、それでいて大切な物事を考える隙間を失っていた。生活に余白がなくなり、自分のことだけで手一杯になってしまう。そうすると、豊かになるために生きているのに、少しずつ、それでいて確実に、自分のなかの何かがすり減っていってしまう。
だから、優しさを取り戻すまで、ひとり暮らしの家と実家を半々に生活をすることにした。
実家に半分戻り、駅までの道をすこし遠回りして歩く。ゆっくりと流れて行く時間と景色の気丈さに自然と目が奪われる。
ここにはなにもない。
それが今の自分にとって、とても大切だということに、8月のぬるい風で思い出す。