アユニ・Dの「トキメキが外の世界へ連れ出す。感情も生活も、すべてが原動力」|トキメキが発動する10の瞬間
人生に大きな影響を与えた運命の瞬間から、日々の小さな幸せまで。トキメキが発動する10の瞬間を語る「10 MOMENT」。
今回の語り手は、昨年の解散ライブで鮮烈な幕を下ろしたBiSHのメンバーとして活躍し、現在は自身のバンドプロジェクトPEDROで新たなステージに立つアユニ・Dさん。弱さや痛みを抱えながらも、愛や希望へと昇華させる彼女。その音楽と言葉には、全身全霊で生き抜く力が宿っています。「喜怒哀楽の感情も生活もすべてが原動力」と語る彼女が紡ぐ、トキメキが発動する10の瞬間とは?
INDEX
1.音楽
生活そのものが原動力。生きた心地をくれる
物心ついたときに初めてトキメキを覚えた音楽はアイドルでした。2023年まで所属していたBiSHも、もともとファンだったこともあり、その存在にときめいていました。アイドルには自分と正反対のキラキラした憧れがありましたが、BiSHは汗だくでがむしゃらに暗い感情まで叫びながら表現していて、その姿に衝撃を受けました。
自分がBiSHに入ってからもそうでしたが、今も音楽と向き合う時間は、無我夢中です。嫌なことを忘れられて、生きた心地がする瞬間です。好奇心旺盛でいろいろなことに手を出しますが、やっぱり音楽は命をかけられる存在だと感じます。新譜『意地と光』には、悲しみや怒りから生まれる「意地」と、喜びや嬉しさから生まれる「光」を込めました。喜怒哀楽全てが情熱になり、生活そのものが音楽の原動力です。
BiSHが解散し独り立ちしたとき、喜びや楽しい気持ちだけで音楽を作ろうとしたこともありましたが、うまくいかなくて。根暗な部分を昇華し情熱に変えることが、自分にとってトキメキだと気づいたんです。活動の形が変わっても、大事にしているものは変わりません。作詞作曲とは言いつつ、この世に存在してる言葉や音を並べてるだけなので、自分の思いは120%伝わらなくてもいいなと思っています。聴いてくださる方それぞれの生活にどこかでリンクして、お守りのような存在になればすごく嬉しいです。
2.服
おめかしは最大のお守り。服が外に出る喜びに
服を好きになったのは数年前からです。左のワンピースをお誕生日にくださった方の「好きな服を着ると、お家から1歩出たらランウェイみたいな気分になる」という言葉がきっかけでした。その方のおかげで服を好きになり、おめかしは最大のお守りだと思うようになりました。特にこの二つは、自分にとって特攻服のような存在です。スキーウェアは北海道生まれの私にとって懐かしく、心強い服です。意味を作って服を着たいので、上京後に初めて自分で購入したカラフルなスキーウェアには、思い入れがあります。
以前引きこもりがちだった私が、外に出るのが楽しくなったのも、明日何を着よう?と考えるようになったからだと思います。先日、フィンランドで訪れた古着屋さんでは、店主の方が好きなアーティストのバッジがたくさん付いたデニムジャケットに一目惚れし、「絶対ほしい!」と迷わず購入しました。トキメキをすごく大事にしているので、トキメキセンサーはかなり鋭いです。クローゼットにあるだけでも力になります。
3.映画
シュールでキュート。心を動かすトキメキ作品
映画館に行くことも、DVDを集めることも大好きです。気に入った作品のDVDを買うこともあれば、古本屋でジャケット買いをすることもあります。面白い作品もあれば期待外れなものもありますが、それもまた良い思い出です。部屋の一角はTSUTAYAのようにDVDが並んでいて、今日は特にお気に入りのものを持ってきました。
『ナポレオン・ダイナマイト』は特別な作品で、登場キャラクター「ペドロ」がバンド名PEDROの由来です。陰気で目立たないけれど、生徒会長に立候補したり、女の子にアプローチしたりと、行動力と好奇心に溢れた彼の姿に惹かれました。
母が映画好きで、子供の頃から一緒に映画を観たり、家でビデオが流れていた影響で、映画は生活の一部になりました。『長くつ下のピッピ』は特によく観た思い出の作品で、大人になってから人形も手に入れました。シュールでキュート、少しシニカルさが混ざった作品が特に好きです。『GOEST WORLD』や『ウール100%』など、映画を通じてファッションにときめくことも多いです。
4.化粧
魔法道具の研究。変身のトキメキを知った瞬間
9歳年上のお姉ちゃんが高校生だった頃、私は小学生で、鏡の前でお化粧している姿を隣で見ているのが大好きでした。初めてマスカラをしてもらった時、「私もお姉ちゃんになれた!」と感じたあのトキメキは、変身の楽しさを初めて知った瞬間です。
BiSH時代はコスメをとことん研究し、メンバーとも情報を共有して楽しんでいました。でも、BiSH解散後は、一度すべてやめて化粧をしない時期があって。その間、人と顔を合わせるのが恥ずかしくなり、日常にトキメキを感じられなくなってしまったんです。久しぶりにリップをつけた時、初めて化粧した女の子のように「プリンセスになった気分」と思い、おめかしの楽しさに再度気づきました。
シュウウエムラのアイシャドウは特にお気に入りで、自分だけの色を選べるパレットが特別感を与えてくれます。ライブの衣装に合わせてメイクをするのも楽しみの一つで、変身の魔法道具を手にしたようなワクワク感を覚えます。
5.読書
本がくれる小さな勇気とトキメキ
漫画、エッセイ、写真集、絵本。本はジャンルレスに楽しみ、少年漫画や流行りの作品、古本屋で目を引いたものまで幅広く読みます。
エッセイは人の習性や生活を知ることができ、「これでいいんだ」と思える瞬間があります。絵本はジャケ買いすることも多く、ブックオフで探すのが好きです。大人も涙するような深い内容にときめくことも。この写真集(写真左下)は古本屋で一目惚れして購入しました。
本は移動時間や眠れない夜にも読み、音楽のように日常に溶け込む存在です。益田ミリさんの作品はほぼ全て持っており、最近アートフェスでソノダノアさんご本人にお会いできたのは奇跡のようでした。作詞にも、本や写真、映像などからの影響を強く感じています。自分の言葉は、触れてきたものから生まれていると実感します。
6.絵
心を軽くし、大切なものを増やしてくれる表現
絵を描き始めたきっかけは、気持ちが落ちていた時期に「何かしなきゃ」と思ったことでした。音楽に向き合いすぎて迷ってしまって、最終手段のようにざっと描き始めたのが半年ほど前です。小さい頃から図工や音楽が好きだったので、その延長線上にある感覚かもしれません。
絵を見るのも好きで、すごく感動しますし、自分も描いてみたいという欲求をかき立てられます。無知識ながらも自由に描いていますが、なかなか上手くいかず、もっと時間をかければ良いものが描けそうなのに、手を止めてしまうこともあります。そんな時、「本当に描きたい」と思った時だけ描くのが自分にとって一番良い距離感だと気づきました。
絵を描くと心が軽くなり、大切にしたいものが増えるような愛おしさを感じます。お家を自分のとっておきの「ときめくもの」だけにしたい欲求があり、可愛い石鹸入れが欲しいと描いたものが、今では私にとって愛着のある「ときめくもの」になりました。
7.推しの存在
天使のような存在、田渕ひさ子さんへの愛
PEDROでギターを弾いていただいている田渕ひさ子さん(写真右・奥から2番目)は、私にとって天使のような存在です。キューティーでベイビーエンジェルのようでもありながら、母親のような寛大さも兼ね備えた、不思議な魅力を持つ方です。PEDROを始めてから出会ったのですが、当時私はバンドについてほとんど無知でした。ひさ子さんと出会い、過去のライブ映像や現在の音楽、20年前のコラムまで、ひたすら掘り下げていきました。初めてお会いした時、ニコニコしていて天使のような印象を受けた一方で、ライブでの鋭いギタープレイに驚かされ、そのギャップに一気に惹かれました。以来、推しとして、また人としても心から尊敬する方です。
ひさ子さんは、いろいろな人生の曲折を経て、今もたくましく、好きなものを大切にしながら生きていらっしゃいます。何かに行き詰まったときには相談に乗っていただき、その助言は私の光となっています。ひさ子さんと共にライブやツアーを通じて、もっと上手くなりたい、もっと良くなりたいという思いを抱きながら、日々助けられています。
8.旅
トキメキを求めて新しい世界を探しに行く冒険
人と一緒にいる楽しさや、知らない場所やコトを知るトキメキに気づいてから、旅が大好きになりました。ライブで全国を回る際には、自分で延泊して過ごすこともあります。近場のお出かけでも、ひょんなことから新しい何かに出会えるかもしれない。そんな期待を胸に、トキメキを求めて外の世界に出る感覚です。
例えば、島に住む友達の家で広い海にときめいたり、石川県で日本一好きな古着屋さんを訪れたり。旅先でのハプニングさえプラスに感じます。古いお宿やおばあちゃんが営む古民家風の旅館が好きで、1人でも動物園や水族館、美術館を巡ることもよくあります。動物を見ると、人間以外の生物の面白さに触れ、頑張ろうと思えるんです。PEDROのチームメンバーとも地方で水族館や動物園に行くことがあり、1人でもみんなでも楽しめる旅が私にとって大切なトキメキです。
9.ライブ終わりの打ち上げ
全力を尽くした後の、特別なご褒美時間
チーム一丸となって切磋琢磨し、全力を尽くした後に飲むお酒は、ご褒美のように感じます。ツアー中は声に響くためほとんど禁酒していますが、ライブごとに反省点がある中で「この状態で飲む資格はない」と思うこともあります。それでも、やり切った後のお酒は格別です。
BiSH時代は、グループのみんなと苦しいときは一緒に苦しいねって、楽しいときは一緒に楽しいねって言い合えました。しかし、ソロ活動ではそうはいかず、自分でプレッシャーを抱え込むこともあります。そんな中で、チームの人に労ってもらい、一緒に頑張った仲間と打ち上げる時間は、私にとって特別なひとときです。その空気感を、いつも噛み締めています。
10.チーズナン
ナンがメイン。至福の味との衝撃の出会い
実家に暮らしていた頃は、ほとんど毎日母親の手作りご飯を食べていました。裕福な家庭ではなかったので、外食をする機会はほとんどありませんでした。上京して外食中心の生活になった時、近所のネパール人が経営するインドカレー屋さんで初めて「チーズナン」を見つけて食べた時の衝撃は忘れられません。それ以来、すっかりその魅力に取り憑かれています。特にお気に入りのお店はありません、チーズナンはハズレがないので。
タイ料理も提供しているお店では「今日はガパオライスを食べよう!」と思って入るのに、ついチーズナンを頼んでしまうことも。カレーが副菜…というくらいチーズナンが好物です。さすがに毎日は控えていますが、週一くらいで抑えて楽しんでいます。
長く心に宿るトキメキを大切にしながら、新たなトキメキとの出会いを求め続ける。
人生に欠かせない音楽の存在から、旅や映画まで、一つ一つの言葉を大切に紡いで語ってくれたアユニ・Dさん。喜怒哀楽すべての感情を抱きしめて生み出される彼女の音楽と言葉は、聞く人の生活にそっと寄り添い、ときに一歩を踏み出す力をくれる。今日もきっと、彼女の表現や存在に背中を押される人がいるだろう。
ツアー情報
PEDRO ラブ&ピースツアー Final 「意地と光」
2025年1月15日(水)なんばHatch【大阪】
2025年1月21日(火)Zepp Haneda【東京】
<チケット発売中>
http://w.pia.jp/t/pedro/
リリース情報
PEDRO mini Album『意地と光』
発売日:2024年11月6日(水)
購入ページ:https://lnk.to/PEDRO_ith_ec
アユニ・D
2023年6月に解散したBiSHのメンバー。現在はPEDROのベースボーカルと楽曲の作詞作曲までを行う。唯一無二のキャラクターそして独特の世界観や感性が大きな支持を集めている。2024年11月には、ミニアルバム『意地と光』をリリース。2025年3月1日には、ヨーロッパで撮り下ろした写真集『執着』『平熱』と、豪華版写真集『執着と平熱』を刊行予定。
Instagram:@ayunid_official
X:@AYUNiD_BiSH
PEDRO official site:https://www.pedro.tokyo/
写真集:https://official-goods-store.jp/pedro/