にしな「思い出を抱きしめて、変わっていく自分を楽しむ。」|トキメキが発動する10の瞬間
人生に大きな影響を与えた運命の瞬間から、日々の小さな幸せまで。トキメキが発動する10の瞬間を語る「10 MOMENT」。
今回の語り手は、ミュージシャン・にしなさん。記憶の断片や日々の営みの中にある“かわいさ”を、まるで宝物のように、ひとつひとつ拾い上げていく。思い出を大切にしながら、音楽も自分自身も少しずつ変化していく――。その歩みのなかで見つけた、“トキメキが発動する10の瞬間”とは?
2025.10.25
INDEX
1.フィルムカメラで「撮りたい」と思うとき
日々の営みの中にある“何気ないかわいさ”
カメラを始めたきっかけは、小さいころの家族旅行。カメラで撮った写真を「わ、上手!」と褒められたのがうれしくて、写真が好きになりました。大人になるにつれてフィルムの風合いに惹かれ、仕事で出会ったカメラマンさんにすすめてもらううちに、どんどんハマっていきました。
カメラを持って歩いていると、「あ、撮りたい」と思う瞬間が必ずあります。仕草がかわいい人や動物の表情、滑り台で遊ぶ子どもや雪を掘る少年少女など、日々の営みの中にある何気ないかわいさにトキメキます。香港で見た“優先席のニコちゃんマーク”や、街でゴローンと寝そべる犬など、海外では看板ひとつとっても日本とは違う色味が多く、そういう違いを撮るのも楽しい。現像して写真を見るときのワクワクは、おみくじを引くような感覚。撮った覚えのない写真が出てくるのも楽しいです。
2.持ち帰りたくなるステッカーやマグネットに出会うとき
旅の記憶を、家の中に貼っていく
旅先で出会ったものを持ち帰って貼るのが好きです。美術館やレコードショップ、ローカルな雑貨屋など、訪れた場所ごとにステッカーやマグネットをひとつ選ぶのがマイルール。でもトキメキすぎて、つい何個か買ってしまうこともあります。
韓国の「kompakt Record Bar」で買ったステッカーは、店主の「来てくれてありがとう、今度日本でもイベントやるんだよ」という声や、リラックスしたお店の空気ごと焼きついています。スーツケースや冷蔵庫には、そうやって集めたものをペタペタ貼っていて、見るたびに旅の記憶がよみがえります。
家の中では、“ごちゃごちゃしていいのは冷蔵庫だけ”。旭山動物園の熊のマグネットや、韓国の陶器屋さんで見つけたキノコ、写真家・川島小鳥さんの写真グッズなど、日常と旅の記憶がにぎやかに並んでいます。
3.思い出深いアクセサリーを身につけるとき

気分で身につけられる、お守りたち
帽子やメガネ、指輪、ネックレス。シンプルな格好をしたい日でも、何かひとつ身につけると気分が上がります。
マレーシアのホテルにある宝石屋さんで、おじいちゃんが「あなたに似合うのはこれだ」とすすめてくれた指輪があります。最初は、自分の手には似合わないと思っていたけど、つけてみたら少しおもちゃみたいで、それもいいかもと思えて。相談しながら買ったその指輪は、少しだけ新しい自分に出会わせてくれた気がします。今でも、その瞬間を思い出します。
お母さんからもらったチョーカーや、友達が誕生日にくれたネックレスもあります。「今日はこれ」という気分で選ぶのが楽しいし、アクセサリーは、“身につけるお守り”のような存在です。
4.お花を数本買って帰るとき

景色を変える、生きものの力
家に数日いられるときや、季節の変わり目など、ふとしたときにお花を買って飾ります。マメなタイプではないので、数本だけ買ってカバンに刺して持って帰るくらいがちょうどいい。昔はおばあちゃんがお花を好きなのを不思議に思っていたけど、今はわかる気がします。自然に咲く花も、花瓶に生けた花も、どちらも“生きている”感じがします。その生命感が、暮らしの景色を少しだけ変えてくれます。
5.シール帳をひろげて友達と笑うとき
謎ルールも再現して、本気で楽しむ
小学生ぶりに、シール集めと交換にハマっています。「友達と何して遊んでるかな?」と考えたとき、居酒屋でおしゃべりしていることが多くて。それも楽しいけど、もうひとつ“遊び”のあるアイテムがほしくて、シール帳を再開しました。ファミレスや居酒屋で友達とコソコソ、「これかわいくない?」「交換して!」って言いながら。“これはプクプクシールじゃないと交換できない”みたいな謎ルールも、あえて再現して遊んでいます(笑)。友達のシール帳がカバンごと盗まれてしまったとき、「もう一回作ろう!」と集まってその場で貼り直して。その時間も、思い出になりました。なんでも効率的にしがちな中で、こういう“意味のない楽しさ”を大事にできるのがうれしい。大人になっても、そんなトキメキを忘れたくないです。
6.旅で、その土地の空気や人に触れるとき
生活圏を飛び出し、暮らしに触れる
外に出ると、必ず新しい発見があります。生活圏を飛び出し、自然豊かなところでのんびり過ごすのも好きだし、都会には都会のカルチャーがあって、人の身なりや佇まい、コミュニケーションの取り方も違って面白い。そういう違いを見るのが好きです。
東京で育ったので、地平線のある大きな空や、もくもくとした雲に特にトキメキます。旅先では、風景を見るだけでなく、その場所の空気や人の暮らしに触れることを楽しんでいます。言葉が通じなくても、なるべくフラットに、相手の文化や考え方を尊重しながら、いろんなことを知っていきたいと思っています。
7.小さな“かわいいフィギュア”を見つけたとき

出会った瞬間のトキメキを、そのまま飾る
小さいころからフィギュアや小さい雑貨が大好きです。家の飾り棚はそんなに大きくないので控えめにしているけど、かわいいものを見つけるとついときめいてしまいます。旅先や街歩きの途中で出会うことが多く、雑貨屋さんや博物館のショップ、ガチャガチャコーナーなどで「これだ!」と思ったものを連れて帰ります。ファンの方もそれを知っているので、時々プレゼントしてくれることも。水色のクマのフィギュアは、東京駅で買ったブラインドボックスで、重さを比べてかぶらないように選んだのに、2つ同じのが出ました(笑)。でも何が出るかわからないワクワクも楽しいです。北海道のどこかで見つけた鳥の石の置物もお気に入り。フィギュアって、見つけたときの高揚感も、家に飾ったときの喜びもあって、ずっと楽しい存在です。
8.美味しいパンを食べるとき

“食べられる幸せ”を噛みしめる時間
普段は小麦粉を控えているので、たまに食べるパンや麺が特別なご褒美になります。直島に行ったとき、名物のサババーガーを久しぶりに食べて「こんなにおいしかったっけ!」と感動してしまいました。米粉パンを見つけたときもテンションが上がります。子どもの頃からパンが好きで、パンを食べられる日はちょっと幸せな日。罪悪感も込みで「おいしいな」と思えることにトキメキます。
9.お気に入りの古着を見つけたとき

人の気持ちや温度が宿る古着
生地が薄くなっていたり、色が褪せていたり、ちょっと破けていたり。そういう“使い込まれた古着”に惹かれます。国内外を問わず、ツアー先や旅行先での偶然の出会いも多く、誰かに教えてもらったり、Googleマップで近くの古着屋を調べてふらっと入ったりします。
海外の古着屋で買った“人の顔がプリントされたTシャツ”は特にお気に入り。服に人の顔があると、「あ、人間の顔ってかわいいな」と思ってつい手に取ってしまいます。沖縄の「マンガ倉庫」では、毎日のように2軒ずつ回って、最終日に見つけた一着をお迎えしました。
古着は一期一会。お気に入りに出会えたときの喜びは、何度でも新鮮です。昔は「どうしよう」と悩んで買えなかったけど、今は“後悔するなら買う”“迷い続けるならいらない”というルールで選んでいます。バンドメンバーが買ってくれたアロハシャツなども含めて、どれも人の温度が宿っている気がします。
10.お客さんとライブを余すことなく楽しめたとき
“今死んでもいい”と思えるほどの一体感
お客さんとライブを一緒に楽しめた瞬間、“今死んでもいい”と思うくらい幸せです。孤独な制作の時間も好きだけど、ステージに立つとお客さんのエネルギーがダイレクトに伝わってきて、「この瞬間を一緒に楽しみたい」と心から思えます。
人に対してすごく興味があるので、お客さんが目の前にいるなら、その人たちを知りたい。旅先で出会った誰かにも同じように興味を持って接したい。そんなふうに、いろんな人と出会って変わっていく自分や音楽を、これからも楽しみ続けながら、自分の形で届けていけたらいいなと思います。

思い出を大切にできる人は、きっと自分のことも、人のことも大切にできる。 思い出と今を行き来しながら、変化を楽しむにしなさんの姿は、そんな当たり前のことを、もう一度思い出させてくれる。
にしな
2021年、ワーナーミュージック・ジャパンよりデビュー。同年、Spotifyの次世代アーティスト応援プログラム「RADAR: Early Noise」に選出。
翌年には東京・大阪で初のホールワンマンライブ「虎虎」を開催。さらにアルバムを引っさげた全国ツアー「1999」や弾き語り全国ツアーを行う。 「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスや「ミュージックステーション」にも出演。さらに、藤井風がリスペクトするミュージシャンとして、Tiny Desk Concerts Japanにサポートコーラスとして参加するなど、着実に活動の幅を広げる。
2023年にはライブハウスツアー「クランベリージャムをかけて」、2024年には紅白歌合戦の会場としても知られるNHKホール(東京)でのワンマンライブを成功させた。 また、Rakuten Fashion Week TOKYOシーズンテーマソングの提供、CONVERSE Japanの広告モデルに起用されるなど、ファッションシーンからの注目も集めている。
2025年には東京国際フォーラム ホールAにてワンマンライブ「MUSICK」を開催。2026年には全国10都市を巡るワンマンツアーの開催も決定。 マイペースながらも確かな歩みで、コンスタントなリリースと活動を続ける、注目のミュージシャンである。
Instagram:@247nishina247



















